第46話「アダム」
空調は完動している。電子セキュリティシステムも機敏に反応する。
確かに今現在もなお頻繁に使われているはずの区画である。
だが、そこに澱む空気は、どこかすえた黴臭さを惣流アスカに感じさせた。
「どこへ連れていく気よ」
ネルフ本部最下層よりさらに地下深く。初めて見る経路を案内されて、うち崩れた迷宮をも彷彿とさせる最深部に入り込んでいる。
綾波レイは答えない。
ただ静かな足取りで進んでいく。
――ARTIFICIAL EVOLUSION LABORATORY ANNEX NO.3
「ここは?」
電気は通じているが、すでにその機能は放棄されているようだった。
打ち放しのコンクリート壁に囲まれた部屋の中央に置かれたベッド。
それを取り囲む診療器具類。散らばった薬品。
「わたしの産まれた部屋」
綾波レイは初めて口を開いた。
「あんたの?」
惣流アスカは、取り壊し直前の旧市街マンモス団地、その402号室を思い出した。
碇シンジと彼女とのユニゾン訓練に居場所を失なった綾波レイが一人震えていた部屋。
……この子?
綾波レイの足取りは止まらない。その部屋の前を通り過ぎ、さらに奥へと進む。
廊下端のドアを抜けると、そこはテラスだった。
眼下に広大な空洞が開けていた。遙か向こうまでは照明は届かない。
が、規則正しく、巨大な骨格――頭蓋と脊椎のみの――が無数に並ぶ。
声もなく目を瞠る惣流アスカに綾波レイは呟くように説明した。
「エヴァの墓場よ」
「……これがエヴァ?」
「人は神さまから……アダムからそのコピーをとろうとした。でもそれは人の知恵を越えていたわ」
「失敗作なの?」
「全てそうよ。ここにあるのは10年以上も前に破棄されたもの。ようやく形になったのはほんの数年前のことだわ」
「エヴァになれなかったクローンの死体置き場なのね……」
「そう。そして碇くんのお母さんが初号機に取り込まれたところでもあるわ」
「ここで……初号機のコアの中に?」
「ええ。正確にはあの人の意思で溶け込んだのだけれど」
「え?」
「それが碇ユイさんの願いだったもの」
「それって……あたしは実験事故だって聞いたわよ?」
「違うわ。あの人は自分の意志で、碇司令と碇くんを捨てたの」
綾波レイは無表情に言葉を紡いだ。
「碇司令はそれを受け入れたわ。そして碇ユイさんの願いを成就するために、人類補完計画が始まった」
あるいは、碇ユイはただ自分一人がエヴァンゲリオンとして生き続けることで満足するつもりであったのかも知れない。人類が滅んでも。
その碇ユイの後を追い、全ての人類がエヴァンゲリオンを箱船として生き続ける道を模索した碇ゲンドウの計画は、未練であったかも知れない。
『以前』の綾波レイは、その未練への架け橋だった。
しかし、今の綾波レイにはすでにその計画に拘る心はない。
ただ、碇シンジにのみ、彼女は縋っている。碇ゲンドウの心はもはや遠かった。
「ちょっと。なんか話が合わないじゃない?」
「なにが?」
「シンジのお母さんがエヴァに同化したのって10年以上前でしょ? あんたの話じゃ、その時にはまだエヴァは出来てなかったってことじゃないの?」
「人が造ったアダムのクローンは、零号機、弐号機、そして参号機以降の機体だもの。初号機は違うわ」
「じゃあ、初号機ってなんなのよ?」
そういえば。
前にも聞かされた。初号機と弐号機は異なるのだ、と。
弐号機は制式機体だ。試作機にはない高度の制御機能が逆に制限として働いているのかと思っていたが、そもそも素体の素性が異なるという意味だったのか。
綾波レイはその質問には答えなかった。
「すぐに分かるわ。行きましょう」
見せたいものは、この墓場ではなかったらしい。
テラスからさらに伸びる通路に歩みを向ける。
憮然と惣流アスカはその背中を追った。
「初号機ケージにATフィールドの発生を確認!」
「起動命令なんて出してないわよ?」
「いえ……パターン、ブルー! 使徒です!」
「使徒!?」
中央作戦室は真昼に戻った。
警報が鳴り響く中、あわただしく職員が駆け込み持ち場に着く。
「ケージの映像、出して!」
「はい……なんだ、これ?」
青葉シゲルが思わず素っ頓狂な声を上げる。
胸部装甲が破壊され、コアがむき出しになった初号機。
その前のアンビリカルブリッジに立つのは、碇シンジ、渚カヲル、そして碇ゲンドウの姿であった。
「なに……してんだろ?」
「ちょっと青葉くん! パターン・ブルーってなによ?」
「え、と。少し待って下さい」
青葉シゲルが焦りながらコンソールを再確認した途端。
メインスクリーンに映されていた初号機の顎部拘束具が引きちぎられ、鬼の咆哮が発令所を揺り動かした。
「しょ、初号機、起動?」
「そんな。シンジくんはそこに立ってるのよ?」
「起動じゃありません」
伊吹マヤの叫び。
「初号機の電子システムは全て沈黙しています」
「じゃあ、なに」
「あ、あの……」
「はっきり! 青葉くん!」
「パターン青……使徒です」
「なにが?」
「初号機です」
「なんですって?」
「間違いありません!」
「初号機が……使徒に乗っ取られたの!?」
参号機の悪夢が甦った葛城ミサトに、赤木リツコが青ざめた顔で答える。
「違うわ。目覚めたのよ」
「目覚めたって?」
「初号機……いえ、第二使徒が」
「第二使徒?」
しかし問い返している暇はなかった。
「初号機、ATフィールド展開!」
「シンジくん……碇司令! 危ない!」
「新たなATフィールド、発生を確認!」
初号機を中心にケージの破壊が始まっていた。
周辺の設備を突き崩していく。
だが、碇シンジたち3人の周囲だけは、その破壊を免れていた。いや、遮断していた。
「パターン・ブルー。発生源は……フィフスチルドレンです!」
「な、なによ、それは!」
「初号機、移動……ケージ底部を破壊!」
「弐号機、起動します!」
「アスカ?」
「いえ。エントリープラグには誰も乗っていません!」
「無人で? いったい、どうなってんのよ!?」
発令所はほとんどパニックに陥った。
施設の破壊による爆煙が、ケージの映像を閉ざしていた。
アナライザのデジタル情報だけでは状況を読みとれきれない。
スプリンクラーが作動し粉塵がおさまったとき、崩落したケージを映すメインスクリーンに捉えられたのはインターカムに向かう碇ゲンドウの姿ただひとつであった。
『冬月』
「碇。どうなっとるんだ、これは?」
『総員第一種戦闘配置。初号機を第17使徒と認定。セントラルドグマの全隔壁を緊急閉鎖しろ』
その発令に、スタッフは互いに顔を見合わし呆然とする。
『復唱はどうした?』
「りょ、了解! 総員第一種戦闘配置!」
『レイの居場所は?』
「ファーストチルドレン、セカンドチルドレン、両名ともロスト。確認、急ぎます」
「サードチルドレン、フィフスチルドレンは……セントラルドグマ、リニアエレベータを下降中!」
「初号……いえ、第17使徒と弐号機、戦闘状態で同じくリニアエレベータを下降しています」
「おい、碇」
『発令所に向かう』
メインスクリーンは手に赤い球体を持つ碇ゲンドウの後ろ姿を映した。
綾波レイ。
綾波レイと呼ばれるモノたち。
褐色の水槽に閉ざされ笑う。
「これは……」
「ダミーシステムのコア。わたしの形をしたわたしではない綾波レイ」
惣流アスカは声を失なう。
「南極のアダムの番いとなるジオフロントのリリス。アダムからエヴァが作られたように、リリスから作られたクローンがわたしのオリジナル」
部屋を取り巻く水槽の暗い明かりの中で、綾波レイは語った。
「エヴァ初号機を使って人のかたちと遺伝子融合されたリリスのクローンがわたしなの」
「あんたも……使徒?」
綾波レイは首をふる。
「使徒はアダムに還るモノ。アダムの分身を使徒と呼ぶの。わたしはそうではないわ」
「シンジも、知ってたのね?」
「ええ」
微かな笑みが綾波レイの頬に浮かぶ。
「碇司令がわたしを造ってくれた。でも碇司令にとってのわたしは、ロンギヌスの槍の代替品に過ぎない。アダムとリリスを結び初号機に収斂させる遺伝子融合のための媒介でしかない」
その容貌ゆえに愛情に似た感情を注いでくれはしたが、その感情の寄せるところは綾波レイを通り抜け、初号機に、碇ユイにあった。
綾波レイのかたちは、その繋がりの中ではひたすら虚しい。
「でも碇くんはわたしに教えてくれた」
綾波レイが綾波レイであることを。
人を模した遺伝子媒介ではない。
ダミーシステムのコアでもない。
綾波レイというひとりに存在として生きるべきものであるということを。
「だから……」
「あいつが参号機のエントリープラグを壊すなって言ったのはそういうことなの」
「……ひとつになるの」
「レイ」
「あなたにはわたしがなにに見えるの?」
「ふん」
惣流アスカは『以前』の碇シンジのように怯えはしなかった。
それは、ここに佇む綾波レイを一人の女として見ていたからだろう。
惣流アスカにとって綾波レイは神秘ではなく、母性でもなく、自分と対等の存在だった。
「シンジだってね、わけ分かんない身体じゃない? それでもシンジはシンジよ」
理屈に拘泥して本質を見失うことはない。
それは惣流アスカの生き方だ。自分が行動できる範囲の事実のみを見据える。それはとても子どもらしかったが、ゆえに明瞭であった。
「ならあんたも綾波レイでしょ? なにが変わるわけでもないわよ」
「そう」
表情は変わらない。
だがその短い答えには柔らかさがあった。
「で? 渚カヲルってのは? アダムのクローンなら使徒じゃないの?」
「使徒として産まれた彼の身体はすでに消えているわ。今の彼は、それと同じ形を持つ分かれた存在のひとつ」
「ああ」
納得した。
「人間と同じってわけね。分化した存在だから……」
「使徒としての本能はすでにないわ」
「でも、力はあるわけ?」
「それは魂の形質だから」
「あんたも使徒なみの力、持ってるんだ?」
「使徒も人も、変わらないわ。ATフィールドは誰もが持っているものだもの」
「ATフィールド、ねえ?」
なにか大事なことを忘れている気がしていた。
首をひねる惣流アスカを、綾波レイはさらに続く部屋へと誘った。
「ここは?」
やはり薄暗く広い部屋。
片側の壁面は水槽ではなく、外に向かうガラス窓になっている。
外の景色――ジオフロント中央空洞、ターミナルドグマが見渡せた。
広大な砂漠のような景観。しかし砂ではなくそれは塩の堆積。
所々に高い塩の柱が立つ。
光源のわからない荘厳な煌めきが世界を淡く満たしている。
その神秘の景観が部屋に差し込む明かり。その明かりが僅かに届く部屋の中央に、孵卵器に似た機械が据えられている。
「これがアダムよ」
綾波レイは、機械の中を指し示した。
鶏卵大の平たく丸い胎児のような存在。僅かな脈動がその生命を示している。
「これが……」
惣流アスカは気味悪そうに覗き込んだ。
「使徒はこれを目指してやってきてたの?」
「ええ」
全ての始まり。全てを産み、司るもの。命の源。
その神話に比して、それはずいぶんと弱く頼りなげに見える。
つんつん、と惣流アスカが機械を覆う硬化ガラスの蓋をつついてみたとき。
振動が部屋を揺らした。
「なに?」
「来るわ」
綾波レイは視線を外界の天井に向けた。
……碇くん。
「装甲隔壁、突破されていきます!」
「目標は第2コキュートスを通過!」
戦闘配置とはいえ、発令所はただ事態の推移をモニタすることしかできなかった。
状況が理解できない上に、追撃するにも初号機そのものが使徒と認定され、弐号機もまた制御下にない。
唯一残された零号機も、パイロットをロストしている。
「リツコ!」
葛城ミサトは震える唇を噛みしめる。
「初号機が第二使徒って、どういうことよ?」
今更隠してもしかたないわね、と赤木リツコ。
「人間の科学の限界、よ」
「科学の限界って?」
「エヴァは使徒に対抗するための唯一の兵器。でも人の力では使徒を越えるものなど造れるはずがなかったのよ」
「それは……わかるわ」
「南極で発見されたアダム。そのアダムをコピーして使徒と同じ力を持つ人造人間を造ろうとした。でも、それは失敗の連続。曲がりなりにもそれらしいものが完成したのは、母さんの MAGI システムが稼働してその演算能力を利用できるようになってからのことだった」
「零号機ね」
「でも、碇司令は……いえ、碇ユイさんはそれを待てなかった。コピーを造るには相当程度解析して理解する必要があるけれど、利用するだけならそれほど難しくはないのよ」
「利用するだけ? それって」
「セカンドインパクトの秘密。あなたも知っているんでしょう?」
「ええ」
アダムを卵にまで還元するための計画。
人類補完計画へのはじめの一歩。
「でも南極で発見されたのは、アダムだけじゃない。もう一体、使徒が眠っていたのよ」
「まさか。それを初号機に?」
「そう。第二使徒。それをそのまま素体として流用して造ったものがエヴァンゲリオン初号機。アダムのコピーじゃない、使徒そのもののなのよ、初号機は」
「じゃあ、あの初号機の異常な力は、使徒そのものを使っていたからだったの?」
「それは違うわ」
赤木リツコはあっさり否定した。
「人が制御できるように拘束具で固めたシステム。使徒と同じものでしかないなら、制御している分、力を抑えられているエヴァンゲリオンが使徒に勝てるわけないじゃないの」
「え? だって?」
「エヴァンゲリオンが使徒迎撃兵器として機能するのは、人の力を使っているからなのよ」
アダムより分かれし使徒。それは単にアダムへと本能のままに誘なわれるモノに過ぎない。
人智を越えた存在ではあっても、それは神ではない。
そして知恵を持ちながらも生命としてはあまりにも弱い存在に過ぎない人間もまた、神には成り得ない。
神への道は、そのふたつの形質の融合にこそある。
「人の心で使徒の力を用いる。それがエヴァンゲリオンの本質よ」
「つまり……初号機の力はシンジくんの力だったってことね?」
「そうね」
答えながらも赤木リツコは、真実に思いを馳せる。
エヴァパイロットは、エヴァンゲリオンに封じられた人の魂との橋渡しである。
パイロットがエヴァを制御するというのは、見かけに過ぎない。パイロットは、その言葉とは異なり、本質は操縦士ではないのだ。
エヴァを動かすのは、コアと同化している魂である。
パイロットは、その魂をエヴァと完全に同調させ、覚醒させるための起爆剤。
コアの魂が覚醒しさえすれば、パイロットなど何の必要もなかった。
しかし。
エヴァ初号機が使徒として覚醒したということは、コアの魂が消え去ったことを意味する。
……碇ユイさんの、いえ、碇司令の計画は終わったということね。
赤木リツコはこれまでの全ての努力が灰燼に帰したことを悟った。
「ミサトの言う通りね。初号機を動かしていたのは……シンジくんなんだわ」
……期待されていた碇ユイではなく。
暗鬱な表情で赤木リツコは司令塔を見上げる。
そこには、しかし、常と変わらぬ冷徹な表情で見守る碇ゲンドウの姿があった。
「お前らしくもない。子どもの駄々につきあうつもりかね?」
皮肉な調子で呟く冬月コウゾウ。
机の上に乗せられた赤い宝玉を見下ろす。
「どちらにせよ今は手は出せん」
碇ゲンドウは、手を口元に組み、眼下の作戦室に飛び交う情報をじっと見つめる。
「いいのか?」
「シンジはユイを消し去ることは出来なかった。ユイの魂がまだここに存在する以上、いずれチャンスはある」
「時間はまだあると思うわけかね?」
にやり、と碇ゲンドウの口元が歪む。
冬月コウゾウは嘆息した。
「お前もやはり、人の親か」
メインスクリーンは、エヴァ初号機――第二使徒とエヴァ弐号機がセントラルドグマ最下層に到達したことを示していた。
「ともあれ今は、シンジくん次第か……」
塩の砂漠の天井に亀裂が走る。
最後の装甲隔壁をうち破って、二体の巨人が墜ちた。
「あたしの弐号機!」
窓の外で繰り広げられる赤い巨人と紫の巨人の格闘に、惣流アスカは叫びをあげる。
「ちょっとちょっと、レイ、どうなってんのよ、あれ」
「アスカ?」
その背後からかけられた戸惑うような声。
「シンジ!」
振り向いた惣流アスカの目の前に、二人の少年がいた。
「綾波が……連れてきたの?」
「……アスカに見てもらいたかったから」
「そうなの」
「ちょっとシンジ!」
惣流アスカが割り込む。
「説明してよ。なんで弐号機と初号機がとっくみあってんの? 誰が動かしてんのよ!?」
「初号機を使徒として覚醒させたんだよ」
「へ?」
「アスカくんには悪いけど、弐号機はぼくは制御させてもらってるよ?」
「渚……あんたが?」
「ぼくとエヴァは同じ身体で出来ている。君が弐号機を必要としないのならば、ぼくも同化できるからね」
「あんたが使徒モドキだってのは聞いたわよ」
「それは」
少しひどい言い方だと傷つく。
「だからなんで初号機と弐号機が!」
「父さんは初号機を使って補完計画を遂行するつもりだった。でもぼくはそれは嫌だから」
「それで……初号機を使徒に仕立て上げて壊しちゃおうってこと?」
「うん」
「で、でも。弐号機が初号機に勝てるの?」
「いや。無理だと思うよ」
「ちょっと!」
どうするつもりよ、と不安げに窓の外に視線を戻す。
互角、に見えないこともないが、初号機のパワーのほうが上回っているようだ。
S2機関を内蔵する機体と、渚カヲルの力でのみ制御される機体の差なのだろう。
砂漠の塩を激しく巻き起こして、弐号機が地面を滑った。
「やばいわよ」
……負けるくらいなら、あたしが乗って!
青い瞳でキッと初号機を睨み付け、渚カヲルに命令しようと振り向いて、立ちすくんだ。
「シンジ?」
部屋の中央にある孵卵器様の機械の天蓋が開けられている。
碇シンジの右手がその中に差し込められていた。
「なにをする気!?」
「アダムと融合するんだ」
「なんですって!」
「綾波?」
「……ええ」
碇シンジの後ろに従っていた綾波レイの身体が僅かに煌めいたように見えた。
アンチATフィールドの柔らかな光が碇シンジの身体を包む。
「シンジ……!」
アダムの卵が碇シンジの右掌に溶け込む。
ボコ、と肉のはじけるような音。
少年の左肩に肉腫がわき出るように盛り上がり、無くしていた左腕が再生される。
その様子を呆然と見守る惣流アスカの横では、渚カヲルが哀しげな瞳を少年に注いでいた。
確かに今現在もなお頻繁に使われているはずの区画である。
だが、そこに澱む空気は、どこかすえた黴臭さを惣流アスカに感じさせた。
「どこへ連れていく気よ」
ネルフ本部最下層よりさらに地下深く。初めて見る経路を案内されて、うち崩れた迷宮をも彷彿とさせる最深部に入り込んでいる。
綾波レイは答えない。
ただ静かな足取りで進んでいく。
――ARTIFICIAL EVOLUSION LABORATORY ANNEX NO.3
「ここは?」
電気は通じているが、すでにその機能は放棄されているようだった。
打ち放しのコンクリート壁に囲まれた部屋の中央に置かれたベッド。
それを取り囲む診療器具類。散らばった薬品。
「わたしの産まれた部屋」
綾波レイは初めて口を開いた。
「あんたの?」
惣流アスカは、取り壊し直前の旧市街マンモス団地、その402号室を思い出した。
碇シンジと彼女とのユニゾン訓練に居場所を失なった綾波レイが一人震えていた部屋。
……この子?
綾波レイの足取りは止まらない。その部屋の前を通り過ぎ、さらに奥へと進む。
廊下端のドアを抜けると、そこはテラスだった。
眼下に広大な空洞が開けていた。遙か向こうまでは照明は届かない。
が、規則正しく、巨大な骨格――頭蓋と脊椎のみの――が無数に並ぶ。
声もなく目を瞠る惣流アスカに綾波レイは呟くように説明した。
「エヴァの墓場よ」
「……これがエヴァ?」
「人は神さまから……アダムからそのコピーをとろうとした。でもそれは人の知恵を越えていたわ」
「失敗作なの?」
「全てそうよ。ここにあるのは10年以上も前に破棄されたもの。ようやく形になったのはほんの数年前のことだわ」
「エヴァになれなかったクローンの死体置き場なのね……」
「そう。そして碇くんのお母さんが初号機に取り込まれたところでもあるわ」
「ここで……初号機のコアの中に?」
「ええ。正確にはあの人の意思で溶け込んだのだけれど」
「え?」
「それが碇ユイさんの願いだったもの」
「それって……あたしは実験事故だって聞いたわよ?」
「違うわ。あの人は自分の意志で、碇司令と碇くんを捨てたの」
綾波レイは無表情に言葉を紡いだ。
「碇司令はそれを受け入れたわ。そして碇ユイさんの願いを成就するために、人類補完計画が始まった」
あるいは、碇ユイはただ自分一人がエヴァンゲリオンとして生き続けることで満足するつもりであったのかも知れない。人類が滅んでも。
その碇ユイの後を追い、全ての人類がエヴァンゲリオンを箱船として生き続ける道を模索した碇ゲンドウの計画は、未練であったかも知れない。
『以前』の綾波レイは、その未練への架け橋だった。
しかし、今の綾波レイにはすでにその計画に拘る心はない。
ただ、碇シンジにのみ、彼女は縋っている。碇ゲンドウの心はもはや遠かった。
「ちょっと。なんか話が合わないじゃない?」
「なにが?」
「シンジのお母さんがエヴァに同化したのって10年以上前でしょ? あんたの話じゃ、その時にはまだエヴァは出来てなかったってことじゃないの?」
「人が造ったアダムのクローンは、零号機、弐号機、そして参号機以降の機体だもの。初号機は違うわ」
「じゃあ、初号機ってなんなのよ?」
そういえば。
前にも聞かされた。初号機と弐号機は異なるのだ、と。
弐号機は制式機体だ。試作機にはない高度の制御機能が逆に制限として働いているのかと思っていたが、そもそも素体の素性が異なるという意味だったのか。
綾波レイはその質問には答えなかった。
「すぐに分かるわ。行きましょう」
見せたいものは、この墓場ではなかったらしい。
テラスからさらに伸びる通路に歩みを向ける。
憮然と惣流アスカはその背中を追った。
「初号機ケージにATフィールドの発生を確認!」
「起動命令なんて出してないわよ?」
「いえ……パターン、ブルー! 使徒です!」
「使徒!?」
中央作戦室は真昼に戻った。
警報が鳴り響く中、あわただしく職員が駆け込み持ち場に着く。
「ケージの映像、出して!」
「はい……なんだ、これ?」
青葉シゲルが思わず素っ頓狂な声を上げる。
胸部装甲が破壊され、コアがむき出しになった初号機。
その前のアンビリカルブリッジに立つのは、碇シンジ、渚カヲル、そして碇ゲンドウの姿であった。
「なに……してんだろ?」
「ちょっと青葉くん! パターン・ブルーってなによ?」
「え、と。少し待って下さい」
青葉シゲルが焦りながらコンソールを再確認した途端。
メインスクリーンに映されていた初号機の顎部拘束具が引きちぎられ、鬼の咆哮が発令所を揺り動かした。
「しょ、初号機、起動?」
「そんな。シンジくんはそこに立ってるのよ?」
「起動じゃありません」
伊吹マヤの叫び。
「初号機の電子システムは全て沈黙しています」
「じゃあ、なに」
「あ、あの……」
「はっきり! 青葉くん!」
「パターン青……使徒です」
「なにが?」
「初号機です」
「なんですって?」
「間違いありません!」
「初号機が……使徒に乗っ取られたの!?」
参号機の悪夢が甦った葛城ミサトに、赤木リツコが青ざめた顔で答える。
「違うわ。目覚めたのよ」
「目覚めたって?」
「初号機……いえ、第二使徒が」
「第二使徒?」
しかし問い返している暇はなかった。
「初号機、ATフィールド展開!」
「シンジくん……碇司令! 危ない!」
「新たなATフィールド、発生を確認!」
初号機を中心にケージの破壊が始まっていた。
周辺の設備を突き崩していく。
だが、碇シンジたち3人の周囲だけは、その破壊を免れていた。いや、遮断していた。
「パターン・ブルー。発生源は……フィフスチルドレンです!」
「な、なによ、それは!」
「初号機、移動……ケージ底部を破壊!」
「弐号機、起動します!」
「アスカ?」
「いえ。エントリープラグには誰も乗っていません!」
「無人で? いったい、どうなってんのよ!?」
発令所はほとんどパニックに陥った。
施設の破壊による爆煙が、ケージの映像を閉ざしていた。
アナライザのデジタル情報だけでは状況を読みとれきれない。
スプリンクラーが作動し粉塵がおさまったとき、崩落したケージを映すメインスクリーンに捉えられたのはインターカムに向かう碇ゲンドウの姿ただひとつであった。
『冬月』
「碇。どうなっとるんだ、これは?」
『総員第一種戦闘配置。初号機を第17使徒と認定。セントラルドグマの全隔壁を緊急閉鎖しろ』
その発令に、スタッフは互いに顔を見合わし呆然とする。
『復唱はどうした?』
「りょ、了解! 総員第一種戦闘配置!」
『レイの居場所は?』
「ファーストチルドレン、セカンドチルドレン、両名ともロスト。確認、急ぎます」
「サードチルドレン、フィフスチルドレンは……セントラルドグマ、リニアエレベータを下降中!」
「初号……いえ、第17使徒と弐号機、戦闘状態で同じくリニアエレベータを下降しています」
「おい、碇」
『発令所に向かう』
メインスクリーンは手に赤い球体を持つ碇ゲンドウの後ろ姿を映した。
綾波レイ。
綾波レイと呼ばれるモノたち。
褐色の水槽に閉ざされ笑う。
「これは……」
「ダミーシステムのコア。わたしの形をしたわたしではない綾波レイ」
惣流アスカは声を失なう。
「南極のアダムの番いとなるジオフロントのリリス。アダムからエヴァが作られたように、リリスから作られたクローンがわたしのオリジナル」
部屋を取り巻く水槽の暗い明かりの中で、綾波レイは語った。
「エヴァ初号機を使って人のかたちと遺伝子融合されたリリスのクローンがわたしなの」
「あんたも……使徒?」
綾波レイは首をふる。
「使徒はアダムに還るモノ。アダムの分身を使徒と呼ぶの。わたしはそうではないわ」
「シンジも、知ってたのね?」
「ええ」
微かな笑みが綾波レイの頬に浮かぶ。
「碇司令がわたしを造ってくれた。でも碇司令にとってのわたしは、ロンギヌスの槍の代替品に過ぎない。アダムとリリスを結び初号機に収斂させる遺伝子融合のための媒介でしかない」
その容貌ゆえに愛情に似た感情を注いでくれはしたが、その感情の寄せるところは綾波レイを通り抜け、初号機に、碇ユイにあった。
綾波レイのかたちは、その繋がりの中ではひたすら虚しい。
「でも碇くんはわたしに教えてくれた」
綾波レイが綾波レイであることを。
人を模した遺伝子媒介ではない。
ダミーシステムのコアでもない。
綾波レイというひとりに存在として生きるべきものであるということを。
「だから……」
「あいつが参号機のエントリープラグを壊すなって言ったのはそういうことなの」
「……ひとつになるの」
「レイ」
「あなたにはわたしがなにに見えるの?」
「ふん」
惣流アスカは『以前』の碇シンジのように怯えはしなかった。
それは、ここに佇む綾波レイを一人の女として見ていたからだろう。
惣流アスカにとって綾波レイは神秘ではなく、母性でもなく、自分と対等の存在だった。
「シンジだってね、わけ分かんない身体じゃない? それでもシンジはシンジよ」
理屈に拘泥して本質を見失うことはない。
それは惣流アスカの生き方だ。自分が行動できる範囲の事実のみを見据える。それはとても子どもらしかったが、ゆえに明瞭であった。
「ならあんたも綾波レイでしょ? なにが変わるわけでもないわよ」
「そう」
表情は変わらない。
だがその短い答えには柔らかさがあった。
「で? 渚カヲルってのは? アダムのクローンなら使徒じゃないの?」
「使徒として産まれた彼の身体はすでに消えているわ。今の彼は、それと同じ形を持つ分かれた存在のひとつ」
「ああ」
納得した。
「人間と同じってわけね。分化した存在だから……」
「使徒としての本能はすでにないわ」
「でも、力はあるわけ?」
「それは魂の形質だから」
「あんたも使徒なみの力、持ってるんだ?」
「使徒も人も、変わらないわ。ATフィールドは誰もが持っているものだもの」
「ATフィールド、ねえ?」
なにか大事なことを忘れている気がしていた。
首をひねる惣流アスカを、綾波レイはさらに続く部屋へと誘った。
「ここは?」
やはり薄暗く広い部屋。
片側の壁面は水槽ではなく、外に向かうガラス窓になっている。
外の景色――ジオフロント中央空洞、ターミナルドグマが見渡せた。
広大な砂漠のような景観。しかし砂ではなくそれは塩の堆積。
所々に高い塩の柱が立つ。
光源のわからない荘厳な煌めきが世界を淡く満たしている。
その神秘の景観が部屋に差し込む明かり。その明かりが僅かに届く部屋の中央に、孵卵器に似た機械が据えられている。
「これがアダムよ」
綾波レイは、機械の中を指し示した。
鶏卵大の平たく丸い胎児のような存在。僅かな脈動がその生命を示している。
「これが……」
惣流アスカは気味悪そうに覗き込んだ。
「使徒はこれを目指してやってきてたの?」
「ええ」
全ての始まり。全てを産み、司るもの。命の源。
その神話に比して、それはずいぶんと弱く頼りなげに見える。
つんつん、と惣流アスカが機械を覆う硬化ガラスの蓋をつついてみたとき。
振動が部屋を揺らした。
「なに?」
「来るわ」
綾波レイは視線を外界の天井に向けた。
……碇くん。
「装甲隔壁、突破されていきます!」
「目標は第2コキュートスを通過!」
戦闘配置とはいえ、発令所はただ事態の推移をモニタすることしかできなかった。
状況が理解できない上に、追撃するにも初号機そのものが使徒と認定され、弐号機もまた制御下にない。
唯一残された零号機も、パイロットをロストしている。
「リツコ!」
葛城ミサトは震える唇を噛みしめる。
「初号機が第二使徒って、どういうことよ?」
今更隠してもしかたないわね、と赤木リツコ。
「人間の科学の限界、よ」
「科学の限界って?」
「エヴァは使徒に対抗するための唯一の兵器。でも人の力では使徒を越えるものなど造れるはずがなかったのよ」
「それは……わかるわ」
「南極で発見されたアダム。そのアダムをコピーして使徒と同じ力を持つ人造人間を造ろうとした。でも、それは失敗の連続。曲がりなりにもそれらしいものが完成したのは、母さんの MAGI システムが稼働してその演算能力を利用できるようになってからのことだった」
「零号機ね」
「でも、碇司令は……いえ、碇ユイさんはそれを待てなかった。コピーを造るには相当程度解析して理解する必要があるけれど、利用するだけならそれほど難しくはないのよ」
「利用するだけ? それって」
「セカンドインパクトの秘密。あなたも知っているんでしょう?」
「ええ」
アダムを卵にまで還元するための計画。
人類補完計画へのはじめの一歩。
「でも南極で発見されたのは、アダムだけじゃない。もう一体、使徒が眠っていたのよ」
「まさか。それを初号機に?」
「そう。第二使徒。それをそのまま素体として流用して造ったものがエヴァンゲリオン初号機。アダムのコピーじゃない、使徒そのもののなのよ、初号機は」
「じゃあ、あの初号機の異常な力は、使徒そのものを使っていたからだったの?」
「それは違うわ」
赤木リツコはあっさり否定した。
「人が制御できるように拘束具で固めたシステム。使徒と同じものでしかないなら、制御している分、力を抑えられているエヴァンゲリオンが使徒に勝てるわけないじゃないの」
「え? だって?」
「エヴァンゲリオンが使徒迎撃兵器として機能するのは、人の力を使っているからなのよ」
アダムより分かれし使徒。それは単にアダムへと本能のままに誘なわれるモノに過ぎない。
人智を越えた存在ではあっても、それは神ではない。
そして知恵を持ちながらも生命としてはあまりにも弱い存在に過ぎない人間もまた、神には成り得ない。
神への道は、そのふたつの形質の融合にこそある。
「人の心で使徒の力を用いる。それがエヴァンゲリオンの本質よ」
「つまり……初号機の力はシンジくんの力だったってことね?」
「そうね」
答えながらも赤木リツコは、真実に思いを馳せる。
エヴァパイロットは、エヴァンゲリオンに封じられた人の魂との橋渡しである。
パイロットがエヴァを制御するというのは、見かけに過ぎない。パイロットは、その言葉とは異なり、本質は操縦士ではないのだ。
エヴァを動かすのは、コアと同化している魂である。
パイロットは、その魂をエヴァと完全に同調させ、覚醒させるための起爆剤。
コアの魂が覚醒しさえすれば、パイロットなど何の必要もなかった。
しかし。
エヴァ初号機が使徒として覚醒したということは、コアの魂が消え去ったことを意味する。
……碇ユイさんの、いえ、碇司令の計画は終わったということね。
赤木リツコはこれまでの全ての努力が灰燼に帰したことを悟った。
「ミサトの言う通りね。初号機を動かしていたのは……シンジくんなんだわ」
……期待されていた碇ユイではなく。
暗鬱な表情で赤木リツコは司令塔を見上げる。
そこには、しかし、常と変わらぬ冷徹な表情で見守る碇ゲンドウの姿があった。
「お前らしくもない。子どもの駄々につきあうつもりかね?」
皮肉な調子で呟く冬月コウゾウ。
机の上に乗せられた赤い宝玉を見下ろす。
「どちらにせよ今は手は出せん」
碇ゲンドウは、手を口元に組み、眼下の作戦室に飛び交う情報をじっと見つめる。
「いいのか?」
「シンジはユイを消し去ることは出来なかった。ユイの魂がまだここに存在する以上、いずれチャンスはある」
「時間はまだあると思うわけかね?」
にやり、と碇ゲンドウの口元が歪む。
冬月コウゾウは嘆息した。
「お前もやはり、人の親か」
メインスクリーンは、エヴァ初号機――第二使徒とエヴァ弐号機がセントラルドグマ最下層に到達したことを示していた。
「ともあれ今は、シンジくん次第か……」
塩の砂漠の天井に亀裂が走る。
最後の装甲隔壁をうち破って、二体の巨人が墜ちた。
「あたしの弐号機!」
窓の外で繰り広げられる赤い巨人と紫の巨人の格闘に、惣流アスカは叫びをあげる。
「ちょっとちょっと、レイ、どうなってんのよ、あれ」
「アスカ?」
その背後からかけられた戸惑うような声。
「シンジ!」
振り向いた惣流アスカの目の前に、二人の少年がいた。
「綾波が……連れてきたの?」
「……アスカに見てもらいたかったから」
「そうなの」
「ちょっとシンジ!」
惣流アスカが割り込む。
「説明してよ。なんで弐号機と初号機がとっくみあってんの? 誰が動かしてんのよ!?」
「初号機を使徒として覚醒させたんだよ」
「へ?」
「アスカくんには悪いけど、弐号機はぼくは制御させてもらってるよ?」
「渚……あんたが?」
「ぼくとエヴァは同じ身体で出来ている。君が弐号機を必要としないのならば、ぼくも同化できるからね」
「あんたが使徒モドキだってのは聞いたわよ」
「それは」
少しひどい言い方だと傷つく。
「だからなんで初号機と弐号機が!」
「父さんは初号機を使って補完計画を遂行するつもりだった。でもぼくはそれは嫌だから」
「それで……初号機を使徒に仕立て上げて壊しちゃおうってこと?」
「うん」
「で、でも。弐号機が初号機に勝てるの?」
「いや。無理だと思うよ」
「ちょっと!」
どうするつもりよ、と不安げに窓の外に視線を戻す。
互角、に見えないこともないが、初号機のパワーのほうが上回っているようだ。
S2機関を内蔵する機体と、渚カヲルの力でのみ制御される機体の差なのだろう。
砂漠の塩を激しく巻き起こして、弐号機が地面を滑った。
「やばいわよ」
……負けるくらいなら、あたしが乗って!
青い瞳でキッと初号機を睨み付け、渚カヲルに命令しようと振り向いて、立ちすくんだ。
「シンジ?」
部屋の中央にある孵卵器様の機械の天蓋が開けられている。
碇シンジの右手がその中に差し込められていた。
「なにをする気!?」
「アダムと融合するんだ」
「なんですって!」
「綾波?」
「……ええ」
碇シンジの後ろに従っていた綾波レイの身体が僅かに煌めいたように見えた。
アンチATフィールドの柔らかな光が碇シンジの身体を包む。
「シンジ……!」
アダムの卵が碇シンジの右掌に溶け込む。
ボコ、と肉のはじけるような音。
少年の左肩に肉腫がわき出るように盛り上がり、無くしていた左腕が再生される。
その様子を呆然と見守る惣流アスカの横では、渚カヲルが哀しげな瞳を少年に注いでいた。