第34話「真実」
「ごめん、ちょっちお手洗い」
友人の結婚披露宴帰りに寄ったホテルのラウンジ・バー。
ヒールの音を響かせ洗面所へ向かうわずか千鳥足の葛城ミサトを見送り、加持リョウジはふっと溜息。
カウンタに並んでカクテルを傾けている赤木リツコに身体を寄せる。
「こうして三人で飲むのも何年ぶりかな」
「のんびりするどころじゃなかったものね」
「今日はいいのかい?」
「最後の息抜き、ってところかしら。明日からはまた缶詰よ」
「真実に一番近い赤木博士、だからな」
「加持くん?」
横目で睨む。
「あんまり深追いすると火傷するわよ」
「忠告かい? それとも警告?」
「忠告よ、友人としてのね」
「リッちゃんは昔からやさしかったからな」
「あら、そうかしら?」
「優しさが悲しみにつながることもある。リッちゃんの泣きぼくろはやさしさの結晶かな?」
加持リョウジの物言いに思わず含み笑い。
「……抱きたい?」
「全て聞かせてもらえるのならな」
「……それは無理ね」
戻ってきた葛城ミサトの姿を見やる。
「そろそろお暇するわ」
「あら、まだいいじゃない」
「お邪魔でしょ?」
「何いってんのよぅ」
「じゃ、加持くん。ミサト、よろしくね」
「ああ。気をつけて、な」
「はーあ」
カウンタにとすんと腰掛けると、バーテンにグラスを振る。
「加持くん、リツコ、口説けた?」
「人聞きの悪いこと言うなよ」
苦笑いする。
「葛城の前で他の女を口説いたりしないさ」
「どうだかぁ。学生時代、何度もあったわよ?」
「勘違いだろ」
「昔のことだけどね」
「……それで? マジな話、収穫、あったの?」
「おや。気づいてたか?」
「馬鹿にするもんでもないわよ?」
妖艶に微笑んだ。
「リツコが隠し事してることは分かってるわよ」
「知りたいか?」
「まぁ、ね。ドイツに居た頃、使徒の姿を見てなかった頃は復讐だと思ってたけど」
「実物を見ると、そればかりじゃないか」
「この間のナノマシンみたいな使徒にしてもね」
「人智を越えてるからな」
やがて思い切ったように葛城ミサトは囁いた。
「……あんたの隠し事、教えてよ」
加持リョウジは目を細める。
「危険だぞ」
「なにいってんの」
軽く吹くように笑った。
「毎回、命のやりとりしてんのよ。何にも知らないまま死にたかないわ」
「そうかも、な」
空になったグラスを見つめる。溶けかけた氷がカランと音をたてた。
「もうすぐドイツから辞令が届く」
「え?」
「ドイツに帰るよ」
「どうして。碇司令の差し金?」
「ちがうさ」
にやりと笑った。
「辞令を出したのは俺だ。偽造だよ」
「どういうこと?」
加持リョウジは立ち上がった。
「来るかい? 見せてやろう」
「サードインパクト……起こっちゃったんだ」
「うん」
薄暗くなった葛城家リビング。
が、電気をつけるのも忘れて惣流アスカは碇シンジの話に聞き入っていた。
「あたしの覚えてるのは白いエヴァシリーズが最後……」
シンクロ率ゼロの事実に呆然とし廃墟と化した第3新東京市を彷徨った。瓦解した家の浴槽に身をたたえ青空を見上げていた。
そこで記憶は飛んでいる。
気がついたときは弐号機の中。
戦闘のまっただ中にあった。
死にたくない、その思いだけで復活した。
そして白いエヴァシリーズとの殺戮戦。
勝った、と思った。が、ロンギヌスの槍状の武器に貫かれ、同時にエヴァの内部電源も切れた。
殺してやる、その思いが渦巻いたとき、惣流アスカは時を遡ったドイツ支部にいたのだ。
「かなり混乱してるし、今でもはっきり思い出せないけど」
思い出したくないのかも知れない。
記憶の混濁は、今を生きるということで切り捨てていた。
「じゃあ、サードインパクトのとばっちりかなんかで、あたしは時空転移したってことだ」
「そうかもね」
「サードインパクトはあんたが起こしたっていったんじゃないの? あんたが分かんないわけ?」
「ぼくが起こしたわけじゃないよ」
少年は否定した。
「依代、っていうんだ」
「ヨリシロ?」
「コントロールに使われただけさ。ぼくと初号機は。サードインパクト自体は、アダムとリリスの融合だからね」
「アダムとかリリスって?」
「アダムは人間の始祖。使徒の始祖でもあるけど」
「え?」
「人間ももともとは使徒のひとつだからね。分離しちゃってるから使徒の力はないけど」
「そ、そうなの?」
惣流アスカには驚くべき話だった。
「アダムから分かれたヒトにはなれなかった別の存在、っていうのが使徒なんだよ」
「やっぱ、わけわかんないわよ?」
「アダムの子どもみたいなもんだよ。でも無理矢理引き離されてる。だからアダムに還ろうとするんだ」
「人間も使徒って言ったじゃない。あたし、別にアダムに還りたくなんてないけど?」
「だから分離してるもの」
「分離って?」
「人類ってひとつじゃないでしょ? 一人一人、えっと、個人個人っていうのかな、バラバラでしょ。バラバラになってるから還ろうっていう本能みたいなのはないんだよ」
「ううん」
惣流アスカは頭を抱えた。
「ほら、この前の使徒の話、聞いたでしょ」
「MAGIに侵入してきた奴のこと?」
「うん。あれも使徒だったけどバラバラになってたから。アダムに還るより生きようとしてた。生き残ろうとしてた」
だからエヴァンゲリオンを必要とせずに殲滅が可能であった、という。
「人間も同じだよ。生きようってすることに必死になってるんだ」
「それで人間はアダムを忘れてるっていうわけなの?」
「うん。でも、ちゃんとした使徒、ってのも変だけど、ひとつになってる使徒はアダムに還ろうとする。だからここにやってくるよ」
「ここに? どうして?」
「だってここにアダムがいるもの」
「どこに?」
「ネルフ本部の地下。場所はぼくもよく分からない。父さんと、多分リツコさんくらいしか知らないんじゃないかな」
「で、でも空母で使徒に襲われたじゃない」
第六使徒。ネルフ本部に向かったわけではない。
「だって、あの時は空母にアダムがいたから。加持さんが運んでたんだ」
「へ? まじ?」
「うん」
「ちょっと待ちなさいよ。アダムってそんなに小さなもんなの? 加持さんが運べるくらいに?」
「本来は大きいんだけどね。加持さんが運んでた時は胎児くらいだったから」
「あんた、出任せ、言ってるんじゃないでしょうね?」
「本当だよ」
苦笑する碇シンジ。確かに荒唐無稽過ぎて現実感がない。
実際に使徒と戦っている、そして時を遡った惣流アスカにしても、である。
「南極で発見されたときは巨人だったんだけど」
「ちょっと、それって第一使徒でしょ? 光の巨人」
「うん。そう。それがアダム」
「それがなんで小さくなっちゃうわけよ?」
「そのためのセカンドインパクトだもん」
「ええ?」
「アダムを卵に戻して、人がコントロールできるようにね」
「卵に?」
「卵の形にして、人間がコントロールしながらリリスと融合させる。そういう計画なんだ」
「だからそのリリスってのは?」
「ジオフロントにあったんだ。大昔から。アダムが南極にいたようにね」
「アダムと同じような巨人なの?」
「うん。最初発見された時はアダムと違って卵だったけど。今は成長を続けてる。もう巨人になっているはずだよ」
「見たの?」
「見てはいないけど、今は。綾波は見てるよ。ロンギヌスの槍を使ったから」
「ロンギヌスの槍……」
「うん。槍はさ、ほら原子炉の制御棒みたいな役目も果たすんだ。それでつなぎ止めて今はリリスの成長を抑えてる。約束の時、までね」
「約束の時、ってのがサードインパクトのことね?」
「うん」
「わかったようなわからないような話ね」
「事実だよ」
「なんで、シンジがそんなに詳しいのよ? 誰が教えてくれたの?」
「カヲルくん」
「カヲル?」
「アスカは知らないだろうけど。ぼくの友達。最後にやってきた……使徒だよ」
「あ、あんた」
今度こそ惣流アスカは飛び上がった。
「使徒と友達ぃ〜?」
「今もぼくと一緒にいるけどね」
「一緒って?」
思わず周りを見渡す。
「心がひとつになってるんだ。ぼくはその力で戻ってきたから」
無言。
がしばらく残った。
「シンジ?」
「なに?」
「あんた、人間なんでしょうね?」
「さあ、どうかな?」
碇シンジは透明な笑いを浮かべた。
「これは……エヴァ参号機?」
ネルフ本部最下層、ターミナルドグマ。
葛城ミサトのIDカードでは侵入を許されない閉鎖区域。
加持リョウジは葛城ミサトすら知らなかったルートを案内して、この地下深くの特殊エリアに降り立っていた。
「エヴァではないよ」
呆然とした表情で、十字架に杭うたれ、さらに胸部に深々と巨大な槍を突き刺された蒼白い腐肉の巨人を見上げる葛城ミサトに説明する。
「人類補完計画、E計画、その全ての要……そしてあのセカンドインパクトを起こした光の巨人、アダム……」
「これが……あの光の巨人……アダムなの? それがこんなところに」
葛城ミサトの胸中に、忌まわしい記憶が甦る。
父親の率いる葛城調査隊に参加した14歳の時。
全てが破壊しつくされた中に茫洋と浮かび上がった巨大な光の翼。巨人。
血を流しながら脱出ポッドの中で垣間見た地獄の風景。
「確かにネルフはあたしが考えるほど、甘くないわね」
「と、俺はそう思ってたんだがな」
「え?」
「まだまだ。ずいぶん甘かったよ」
「どういうことなの?」
「こいつは、アダムでもない。リリス、と呼ばれるものだそうだ」
「リリス?」
「さっき説明したように、俺がドイツから運んできた、そしてここで成長を続けていると思いこんでいたアダム。使徒をこの要塞都市にひきつけ迎撃するための囮だと信じていたアダム。
だが、それはもっと別の目的で使われるためのものだったらしい」
「別の目的ってなんなの?」
「サードインパクトだ」
「ネルフはサードインパクトを阻止するための組織じゃないって言うの!?」
愕然とした表情を浮かべる。
「俺はそれを確かめるためにドイツに戻る」
……そして真実を見極められたなら。
シンジくんとの約束を果たさなきゃならんだろう……
「葛城」
加持リョウジは深い声をかけた。
「もし生きて戻ったら……それまで待っていてくれるか?」
「加持くん?」
「もう一度会えることがあったら、その時には……」
その時には?
「ねえ?」
加持リョウジは言葉を続けなかった。
真実の先にあるものは、加持リョウジにも、葛城ミサトにも見えなかったからかも知れない。
友人の結婚披露宴帰りに寄ったホテルのラウンジ・バー。
ヒールの音を響かせ洗面所へ向かうわずか千鳥足の葛城ミサトを見送り、加持リョウジはふっと溜息。
カウンタに並んでカクテルを傾けている赤木リツコに身体を寄せる。
「こうして三人で飲むのも何年ぶりかな」
「のんびりするどころじゃなかったものね」
「今日はいいのかい?」
「最後の息抜き、ってところかしら。明日からはまた缶詰よ」
「真実に一番近い赤木博士、だからな」
「加持くん?」
横目で睨む。
「あんまり深追いすると火傷するわよ」
「忠告かい? それとも警告?」
「忠告よ、友人としてのね」
「リッちゃんは昔からやさしかったからな」
「あら、そうかしら?」
「優しさが悲しみにつながることもある。リッちゃんの泣きぼくろはやさしさの結晶かな?」
加持リョウジの物言いに思わず含み笑い。
「……抱きたい?」
「全て聞かせてもらえるのならな」
「……それは無理ね」
戻ってきた葛城ミサトの姿を見やる。
「そろそろお暇するわ」
「あら、まだいいじゃない」
「お邪魔でしょ?」
「何いってんのよぅ」
「じゃ、加持くん。ミサト、よろしくね」
「ああ。気をつけて、な」
「はーあ」
カウンタにとすんと腰掛けると、バーテンにグラスを振る。
「加持くん、リツコ、口説けた?」
「人聞きの悪いこと言うなよ」
苦笑いする。
「葛城の前で他の女を口説いたりしないさ」
「どうだかぁ。学生時代、何度もあったわよ?」
「勘違いだろ」
「昔のことだけどね」
「……それで? マジな話、収穫、あったの?」
「おや。気づいてたか?」
「馬鹿にするもんでもないわよ?」
妖艶に微笑んだ。
「リツコが隠し事してることは分かってるわよ」
「知りたいか?」
「まぁ、ね。ドイツに居た頃、使徒の姿を見てなかった頃は復讐だと思ってたけど」
「実物を見ると、そればかりじゃないか」
「この間のナノマシンみたいな使徒にしてもね」
「人智を越えてるからな」
やがて思い切ったように葛城ミサトは囁いた。
「……あんたの隠し事、教えてよ」
加持リョウジは目を細める。
「危険だぞ」
「なにいってんの」
軽く吹くように笑った。
「毎回、命のやりとりしてんのよ。何にも知らないまま死にたかないわ」
「そうかも、な」
空になったグラスを見つめる。溶けかけた氷がカランと音をたてた。
「もうすぐドイツから辞令が届く」
「え?」
「ドイツに帰るよ」
「どうして。碇司令の差し金?」
「ちがうさ」
にやりと笑った。
「辞令を出したのは俺だ。偽造だよ」
「どういうこと?」
加持リョウジは立ち上がった。
「来るかい? 見せてやろう」
「サードインパクト……起こっちゃったんだ」
「うん」
薄暗くなった葛城家リビング。
が、電気をつけるのも忘れて惣流アスカは碇シンジの話に聞き入っていた。
「あたしの覚えてるのは白いエヴァシリーズが最後……」
シンクロ率ゼロの事実に呆然とし廃墟と化した第3新東京市を彷徨った。瓦解した家の浴槽に身をたたえ青空を見上げていた。
そこで記憶は飛んでいる。
気がついたときは弐号機の中。
戦闘のまっただ中にあった。
死にたくない、その思いだけで復活した。
そして白いエヴァシリーズとの殺戮戦。
勝った、と思った。が、ロンギヌスの槍状の武器に貫かれ、同時にエヴァの内部電源も切れた。
殺してやる、その思いが渦巻いたとき、惣流アスカは時を遡ったドイツ支部にいたのだ。
「かなり混乱してるし、今でもはっきり思い出せないけど」
思い出したくないのかも知れない。
記憶の混濁は、今を生きるということで切り捨てていた。
「じゃあ、サードインパクトのとばっちりかなんかで、あたしは時空転移したってことだ」
「そうかもね」
「サードインパクトはあんたが起こしたっていったんじゃないの? あんたが分かんないわけ?」
「ぼくが起こしたわけじゃないよ」
少年は否定した。
「依代、っていうんだ」
「ヨリシロ?」
「コントロールに使われただけさ。ぼくと初号機は。サードインパクト自体は、アダムとリリスの融合だからね」
「アダムとかリリスって?」
「アダムは人間の始祖。使徒の始祖でもあるけど」
「え?」
「人間ももともとは使徒のひとつだからね。分離しちゃってるから使徒の力はないけど」
「そ、そうなの?」
惣流アスカには驚くべき話だった。
「アダムから分かれたヒトにはなれなかった別の存在、っていうのが使徒なんだよ」
「やっぱ、わけわかんないわよ?」
「アダムの子どもみたいなもんだよ。でも無理矢理引き離されてる。だからアダムに還ろうとするんだ」
「人間も使徒って言ったじゃない。あたし、別にアダムに還りたくなんてないけど?」
「だから分離してるもの」
「分離って?」
「人類ってひとつじゃないでしょ? 一人一人、えっと、個人個人っていうのかな、バラバラでしょ。バラバラになってるから還ろうっていう本能みたいなのはないんだよ」
「ううん」
惣流アスカは頭を抱えた。
「ほら、この前の使徒の話、聞いたでしょ」
「MAGIに侵入してきた奴のこと?」
「うん。あれも使徒だったけどバラバラになってたから。アダムに還るより生きようとしてた。生き残ろうとしてた」
だからエヴァンゲリオンを必要とせずに殲滅が可能であった、という。
「人間も同じだよ。生きようってすることに必死になってるんだ」
「それで人間はアダムを忘れてるっていうわけなの?」
「うん。でも、ちゃんとした使徒、ってのも変だけど、ひとつになってる使徒はアダムに還ろうとする。だからここにやってくるよ」
「ここに? どうして?」
「だってここにアダムがいるもの」
「どこに?」
「ネルフ本部の地下。場所はぼくもよく分からない。父さんと、多分リツコさんくらいしか知らないんじゃないかな」
「で、でも空母で使徒に襲われたじゃない」
第六使徒。ネルフ本部に向かったわけではない。
「だって、あの時は空母にアダムがいたから。加持さんが運んでたんだ」
「へ? まじ?」
「うん」
「ちょっと待ちなさいよ。アダムってそんなに小さなもんなの? 加持さんが運べるくらいに?」
「本来は大きいんだけどね。加持さんが運んでた時は胎児くらいだったから」
「あんた、出任せ、言ってるんじゃないでしょうね?」
「本当だよ」
苦笑する碇シンジ。確かに荒唐無稽過ぎて現実感がない。
実際に使徒と戦っている、そして時を遡った惣流アスカにしても、である。
「南極で発見されたときは巨人だったんだけど」
「ちょっと、それって第一使徒でしょ? 光の巨人」
「うん。そう。それがアダム」
「それがなんで小さくなっちゃうわけよ?」
「そのためのセカンドインパクトだもん」
「ええ?」
「アダムを卵に戻して、人がコントロールできるようにね」
「卵に?」
「卵の形にして、人間がコントロールしながらリリスと融合させる。そういう計画なんだ」
「だからそのリリスってのは?」
「ジオフロントにあったんだ。大昔から。アダムが南極にいたようにね」
「アダムと同じような巨人なの?」
「うん。最初発見された時はアダムと違って卵だったけど。今は成長を続けてる。もう巨人になっているはずだよ」
「見たの?」
「見てはいないけど、今は。綾波は見てるよ。ロンギヌスの槍を使ったから」
「ロンギヌスの槍……」
「うん。槍はさ、ほら原子炉の制御棒みたいな役目も果たすんだ。それでつなぎ止めて今はリリスの成長を抑えてる。約束の時、までね」
「約束の時、ってのがサードインパクトのことね?」
「うん」
「わかったようなわからないような話ね」
「事実だよ」
「なんで、シンジがそんなに詳しいのよ? 誰が教えてくれたの?」
「カヲルくん」
「カヲル?」
「アスカは知らないだろうけど。ぼくの友達。最後にやってきた……使徒だよ」
「あ、あんた」
今度こそ惣流アスカは飛び上がった。
「使徒と友達ぃ〜?」
「今もぼくと一緒にいるけどね」
「一緒って?」
思わず周りを見渡す。
「心がひとつになってるんだ。ぼくはその力で戻ってきたから」
無言。
がしばらく残った。
「シンジ?」
「なに?」
「あんた、人間なんでしょうね?」
「さあ、どうかな?」
碇シンジは透明な笑いを浮かべた。
「これは……エヴァ参号機?」
ネルフ本部最下層、ターミナルドグマ。
葛城ミサトのIDカードでは侵入を許されない閉鎖区域。
加持リョウジは葛城ミサトすら知らなかったルートを案内して、この地下深くの特殊エリアに降り立っていた。
「エヴァではないよ」
呆然とした表情で、十字架に杭うたれ、さらに胸部に深々と巨大な槍を突き刺された蒼白い腐肉の巨人を見上げる葛城ミサトに説明する。
「人類補完計画、E計画、その全ての要……そしてあのセカンドインパクトを起こした光の巨人、アダム……」
「これが……あの光の巨人……アダムなの? それがこんなところに」
葛城ミサトの胸中に、忌まわしい記憶が甦る。
父親の率いる葛城調査隊に参加した14歳の時。
全てが破壊しつくされた中に茫洋と浮かび上がった巨大な光の翼。巨人。
血を流しながら脱出ポッドの中で垣間見た地獄の風景。
「確かにネルフはあたしが考えるほど、甘くないわね」
「と、俺はそう思ってたんだがな」
「え?」
「まだまだ。ずいぶん甘かったよ」
「どういうことなの?」
「こいつは、アダムでもない。リリス、と呼ばれるものだそうだ」
「リリス?」
「さっき説明したように、俺がドイツから運んできた、そしてここで成長を続けていると思いこんでいたアダム。使徒をこの要塞都市にひきつけ迎撃するための囮だと信じていたアダム。
だが、それはもっと別の目的で使われるためのものだったらしい」
「別の目的ってなんなの?」
「サードインパクトだ」
「ネルフはサードインパクトを阻止するための組織じゃないって言うの!?」
愕然とした表情を浮かべる。
「俺はそれを確かめるためにドイツに戻る」
……そして真実を見極められたなら。
シンジくんとの約束を果たさなきゃならんだろう……
「葛城」
加持リョウジは深い声をかけた。
「もし生きて戻ったら……それまで待っていてくれるか?」
「加持くん?」
「もう一度会えることがあったら、その時には……」
その時には?
「ねえ?」
加持リョウジは言葉を続けなかった。
真実の先にあるものは、加持リョウジにも、葛城ミサトにも見えなかったからかも知れない。