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第30話「交錯」

「また戦自なの?」

 鳴り響く警報に、葛城ミサトはカンペキに頭に来た、と叫びを上げた。

 中央作戦室メインスクリーンには芦ノ湖の情景が映し出されている。

「駒ヶ岳絶対防衛線外側に部隊展開しています。戦車大隊2。……陸自も出ているようですね」

 報告する日向マコトも、その剣幕に怯え気味である。使徒相手なら頼もしい彼女の気迫だが、それが人間相手に向けられると恐ろしい。

「協定線の外側ですから、戦自に権利はあるんですが」

「芦ノ湖はうちの管轄よ」

 歯をむき出した。

「例の沈んだロボット兵器を狙ってるんでしょ」

 冷静に分析する赤木リツコ。あまり興味はなさそうである。

 彼女も葛城ミサトとは別の意味で忙しい。ロンギヌスの槍の到着を前にして、準備しておくべきことが山ほどあるのに、最高機密がらみで技術部を総動員というわけにもいかず、ほとんど我が身一つで働いている。

 戦略自衛隊などに関わっている暇はない。

「芦ノ湖湖底に高エネルギー反応。浮上してきます」

「パターンレッド。例のロボット兵器です」

「おでましか。うちの兵装にちょっとでも傷つけてみなさい、雷、落としてやるから」

「ロボット、浮上します!」

 戦車隊が一斉射撃に入った。

 しかし、有効な弾着はなさそうだった。

 ロボットは無骨な体躯をひねり、応戦しつつ……戦車隊とは別の方向に移動しつつあった。

「葛城さん!」

「どうしたの?」

「これを!」

 サブモニタに湖畔の道路が拡大される。

「民間人?」

 軍用車ではない。ごく普通の乗用車だ。

 見覚えのある……。

「か、加持ぃ?」

 乗用車の外に、人影がある。加持リョウジではない。子どもらしい。

「倍率、あげて」

 ズームされる。少女だ。

「あれはシンジくんの。霧島さんですよね?」

 伊吹マヤが目を丸くしている。

 車内にも人影。運転席は加持リョウジだろう。

「ファーストチルドレン、セカンドチルドレンも一緒です!」

「ちょっ……あンのバカ、なにやってんのよ」

 信じられないものを見たような顔つきになっている。

「通信、つないで」

 サウンドオンリーの回線が開かれる。

「加持!」

『葛城か? どうした』

「なにやってるの!?」

『ドライブだよ』

「な、なにを……なんでアスカやレイまで」

『シンジくんも誘ったんだがな、会えなかったんだ。そっちでいるかい?』

「サードチルドレンは本部内です」

 青葉シゲルが小さく報告。

「あんた、そこどこだと思ってんのよ。すぐに離れて」

『無理言うな。いつのまにやら周りは戦場だ』

 激しい爆発がメインスクリーンを煌めかせていた。

 ロボットの周辺は重なる爆煙に包まれ、そしてその反撃により戦車隊にも爆発が続く。

 ねじれた戦車の砲塔が炎に包まれ、崩れ落ちる。

「戦略自衛隊総監部より入電。ネルフへの支援要請が来ています」

 青葉シゲルの報告が続く。

 駒ヶ岳絶対防衛線の兵装を借りようというのだろう。

 わなわなと震え続けている葛城ミサト。

「どうしますか?」

「……初号機、発進準備」

「ミサト!」

 赤木リツコが振り向いた。

「相手は使徒じゃないのよ。あんなものにエヴァは出せないわ」

「レイやアスカをほっとくわけにもいかないでしょ」

 冷たい口調で言い放った葛城ミサトの表情は、使徒戦の時のものになっていた。

 こうなった彼女は赤木リツコでも止められない。

 それでも、越権よ、と言いかけたが。

「現在の責任者は私です。起動、急いで」

 唇を噛んだ赤木リツコの顔にひやりとしながらも、伊吹マヤは起動シーケンスを開始するしかなかった。



「ねえ、加持さん。どこ行くつもり?」

 助手席に惣流アスカ。後部シートには霧島マナと綾波レイが並んでいる。

 綾波レイ以外は不安げな表情を隠せない。

「芦ノ湖さ」

 霧島マナの肩がぴくりと震える。

「みんな、ご存じなんですか?」

「説明してくれるんでしょ!?」

 少女の声が重なった。

「かなり前から、戦自に妙な動きはあったのさ。俺の仕事に無関係ってわけじゃないんでね、情報は集めてた」

 車は市内南端区から湖尻を抜け、芦ノ湖東岸沿いのハイウェイに入る。

「葛城が昇進しただろ? あれも実は胡散臭かったんだ」

「そうなの?」

「大人の世界、ってやつだがな。色々汚いこともあるさ」

 ステアリングを切りながら器用に肩をすくめる。

「俺は葛城に対して工作してくると思ってたんだ。けど、直接、チルドレンを狙ってくるとはな」

「だから言ってたじゃん」

 後部座席を振り向いてきつい目を向けた。

「こいつはスパイだって。シンジに甘いこと言って利用してさ」

「違います」

「スパイじゃないって言うの?」

「それは……。でもシンジくんへの気持ちは嘘じゃ……」

「言い訳ね!」

 身体をひねって乗り出した。

「騙してたのは事実じゃないの! あいつはあたしの言うこと、聞かなかったから。加持さんが教えてくれなきゃ、シンジはずっと」

「それは違うな」

 加持リョウジの声が遮った。

「シンジくんは知ってたんだそうだよ。最初から。最初にマナちゃんに逢った時から」

「え?」

 霧島マナは呆然とし。

 惣流アスカは表情を消した。

「シンジくんの勘、ってやつなのか、それとも誰かに情報をもらったのか、そこまでは俺にもよくわからんが」

 バックミラーで後部座席を流し見る。呆然としている少女の顔が映る。

「エヴァの技術、パイロットの操縦システム。そんなものをスパイしたってロボット兵器には何の役にも立たんさ。使徒とエヴァの戦いを見て、それは君にも分かったはずだ」

 霧島マナの肯定を待って続ける。

「エヴァのパイロットは訓練すれば誰でもなれるっていうようなもんじゃない。軍隊には、そんな技術の応用はきかない。

 スパイしたところで、そんな情報に価値はないさ。戦自のロボット兵器開発計画はどうせ駄目になるよ」

 そうなれば。

 訓練にいそしむ少年兵はともかく、パイロットとして役に立たない霧島マナ、あるいは脱走兵などにそれこそ価値はない。

 機密に触れている分、邪魔なだけの存在である。

「いくらなんでも命までは消されないだろうが、へたすりゃ一生、幽閉だ」

「あたしは……」

「シンジくんは、君を助けてやって欲しいって俺に言ってきたんだ」

 碇シンジの言葉には辻褄の合わない点もあったが。

 戦略自衛隊の動きは、確かに少年の言葉をなぞっていた。

 加持リョウジの勘は、碇シンジを信用した。

 だから、動いた。

「ちょっとした手配は俺の専門だからな。マナちゃんはこれから自由に暮らせるさ」

「ファースト」

 惣流アスカが口を開いた。

「あんた、知ってたの?」

 その質問の意味は、綾波レイだけが正確に理解した。

「……ええ」

「あたしは戦自を出られるんですか? 普通の女の子で、シンジくんと一緒に……」

「それは無理だ」

「え?」

「さっき助けた……浅利ケイタくんだったか……彼と、まだ湖にいる君の友達と。3人ともこの街は出てもらう。別の街で、別の名前で暮らすんだ。戸籍も新しく作り直してある」

「じゃあ」

「シンジくんにはもう会えないよ。この街に戻ってきても駄目だ。君たちが自由を得るにはそれしかないし……シンジくんもそれを望んだよ」

「シンジが?」

 ぴくりと、霧島マナではなく、惣流アスカが反応した。

「ああ。とにかく、まず湖の中の少年を助け出さなきゃな。戦自が部隊を展開しているはずだ。捕獲できないとなれば、機密保持のためにN2爆弾も使いかねない」

 車は沿岸の測道に入っていた。

「彼と連絡はとれるだろう?」

「……はい。通信機がありますけど」

 思い悩んでいる様子だった。

 自由。

 その渇望と、碇シンジとの決別に揺れているのだろう。

 それは見て取れるが、躊躇を許すいとまはなかった。

「じゃあ急いでくれ。予想していたより戦自の動きが早いようだ」

 すでに戦車大隊が道路を埋め尽くしている。

 加持リョウジは、ちょっとまずい、という顔になっていた。

 ……シンジくんの予想のほうが正しかったか。エヴァに頼るしかないな。

 車を停めて、霧島マナに連絡を促す。

 隠密行動は不可能になっていた。

 うまくパイロットを回収して、かつ、ロボット兵器は形を残さぬほど破壊するしかない。かなり危ない綱渡りだった。

『加持! なにやってるの!?』

 外に立ち無線機を操る霧島マナを見つめる加持リョウジの耳に車載無線ががなりたて始めた。



「初号機、高機動モードに入ります」

「アンビリカルケーブル、切断。内部電源、残り2分」

「ATフィールド展開。電磁場、乱れます!」

 中央作戦室メインスクリーンにノイズが走った。

「初号機のATフィールド、ちょっと凄まじすぎるわね」

「このパワーじゃ、現場の戦自ですらモニタできてないんじゃないですか? 砲撃も止まっています」

 戦場は絶対防衛線の向こう、かなり南西に移っている。第3新東京市内なら問題なかったろうが、システムの完備されていない場所での戦闘である。

 本部でもモニタしきれなかった。

「高エネルギーの爆発を確認!」

「シンジくん?」

「ATフィールドの影響で通信、途絶してます」

「リツコ、なんとかなんないの?」

「大丈夫よ。初号機のコントロールはなんとか、モニタできているわ。パイロットに異常はないから」

「ATフィールド消滅」

「映像、回復します」

 メインスクリーンのノイズが晴れる。

 立ちつくす初号機の姿があった。装甲に傷は見えない。

 その足下には、圧搾され溶けた瓦礫と化したロボット兵器の残骸が、爆発の余熱に空気を揺らめかせていた。

『作戦終了しました。回収、お願いします』

 静かな碇シンジの声が発令所に響く。

 それはたしかに、終わりを告げる声だった。



「ばかシンジ!」

 リビングには、先に帰宅しているはずの碇シンジの姿はなかった。

 躊躇わず、少年の部屋に駆け込む。

 碇シンジは、ウォークマンを耳に、ベッドに腰掛けていた。目の前に仁王立ちになった赤毛の少女に、顔を上げる。

「霧島マナ、行っちゃったわよ」

 ゆっくりとヘッドホンをはずし、横に置く。ベートーベンの旋律が微かに漏れ聞こえる。

「そう」

「あんたに壊される前に脱出したムサシってやつと一緒にね。名前を変えて余所の街で暮らすんだって?」

「うん」

「あんたが仕組んだの?」

「マナが死なずにすむ方法だよ。加持さんはそれしかないって言ってた」

「知ってたんだ。霧島マナが死ぬこと」

 蒼い瞳は鋭かった。

「悲しむのはもういやだったからね。一番楽しいと思えることを選んだ」

「あたしのことも知ってるわけね?」

 うん、と首を縦にする。

「そしてあんたも、やり直してるっていうわけなんだ」

「アスカと空母で逢った時。すごくびっくりした。ばかシンジ、って呼ばれたからさ。あっ、って思って」

「なんで?」

 ぐい、と首を突き出す。

「なんで言わなかったの?」

「ぼくも……知ってるって?」

「そうよっ! 気づいたなら、なんで隠してたの」

「怖かったから」

 なにが? と目で問う。

「ぼくはアスカを守って上げようと思ってた。アスカが壊れちゃわないように。今度は気まずくならないように」

「はん?」

「アスカに嫌われてたから。でも、なにも知らないアスカになら、うまくやれば」

「嫌われないですむって? 自分はなんでも知ってるから教えてあげようって?」

「うん」

 パン!

 頬が鳴った。

「それがよけいなお世話なのよ!」

「そう、みたいだね」

 惣流アスカは振った右手を腰に戻した。胸を反らせて見下げる。

「おあいにくだったわね、何にも知らないあたしじゃなくて」

「だからさ」

 赤く腫れてきた頬をそのままに唇を歪めるように笑う。

「アスカはぼくのことに気づかなかったから、でもなんだかやさしくしてくれたから。ぼくがぼくだって言わなかったら、うまくやっていけるのかな、楽しくやっていけるのかなって思っちゃったんだ」

「それで言えなくなったの?」

 少し意外そうに問い質す。

「うん」

「で? 霧島マナを助けるために、バレちゃうのを覚悟で動いたの? そんなにあの女が好きだったわけ?」

「そうじゃないよ。もうマナには逢えないんだしね」

「じゃあ、なによ? あんた、なにをしたいの?」

「なにって?」

「英雄ぶって、どうすんの、って訊いてんのよ! 霧島マナを助けて」

「ぼくはぼくにできることをするだけだよ。言ったろ?」

「あんた。ほんとにバカね」

 呆れるように言い捨てた。

「やり直してるったって、なぁんも変わってないじゃん」

「そうかもしれない」

「……誰のために生きてんのよ?」

「誰って?」

「人の顔色うかがってたって、幸せになんかなれないわよ?」

「アスカはどうなのさ?」

「あたし?」

「前にも言っただろ。勝つとか負けるとかでエヴァに乗ってても……」

「もういい!」

 ドンと床を蹴った。

「出ていく」

「え?」

「あたし、出ていく」

 激高している、というには弱い声だったが。

「本部の宿舎に行く。荷物はあとで誰かに頼むから」

「アスカ……」

「あんたはファーストとでもよろしくやってなさい!」

 バタン。

 とドアが閉じられた。

 唐突な静寂の中で、カセットテープが終端に来た音がカチリと響いた。



 カチャリ、と再びドアが開かれたのはまもなくの事だった。

「アスカ?」

 青い髪が揺れた。

「綾波」

「あの人、出ていったわ」

「そう」

 綾波レイは、碇シンジの横に腰掛けた。二人の体重を乗せてベットがきしんだ。

 差し込んでいた西陽(にしび)がかげる。

 日が暮れようとしていた。

「また……繰り返しちゃったみたいだね」

 ぽつり、と碇シンジは言葉を置いた。

 綾波レイは答えない。

 静かに沈黙が流れる。

「間違ってるのかな、ぼくは」

 質問なのか、確認なのか、またぽつり、と。

 やはり綾波レイは答えない。

 いや、答えられなかった。

 少女もまた、自分の心を持て余していたからだ。

 それは碇シンジの、初号機の頑ななATフィールドが、リリスの記憶を揺さぶった結果だったのかも知れない。

 アンチATフィールドの波の中の一体感が遠くなっていた。

 あるいは今綾波レイを悩ませている想いは、碇シンジの、そして惣流アスカの想いと同じものであったのかも知れなかったが、それに気づくには少女の心は不器用すぎ、幼すぎた。

「……碇くん?」

 突然、固く抱きしめられた。

 少年の腕が手折れそうに細い腰にまわされ、引き寄せられる。

 自然、反り返った上半身が少年の胸をこする。制服のブラウスを丸く膨らませた乳房が、柔らかくつぶれるように形を歪め、そのまま。

 バランスを崩すようにベッドに押し倒された。

 そのつもりは、碇シンジにはなかったのかも知れない。

 重なり合ったとき、びくりと少年の身体が震えるのが分かった。

 だが、解放はされなかった。

 少年の重みが、胸と腰をつなぎ止めている。

 腰を押さえている両手の片方がはずされ、しばらく空で躊躇った後、ベッドに投げ出された少女の手に重ねられた。

 てのひらを握り合わせ、しばらく止まる。

 やがてゆっくりと腕を伝ってうなじに触れられた。

 くすぐるように指が動く。

 少年の顔は、首筋に埋められてその表情は見えなかった。

 息づかいが熱く首を焦がした。

 ……ひとつになりたいの?

 綾波レイは静かに身体の力を抜いた。

 だが。

 少年の手がベストを割り、ブラウスの上から膨らみに触れたとき。

 ためらいがちな指が柔らかな丸みをたわめたとき。

 綾波レイは開放の欠如に気づいてしまった。

 ……求められていない。

 この身体のふれあいは、待望していた一体感とは遙かに隔たっていた。

「……だめ」

 ようやく綾波レイが小さく言葉を発したとき、その拒絶を待ち望んでいたかのように碇シンジの動きが止まった。

「ごめん」

 急に重みが消えた。

 身体が離され、代わりに流れ込むように、空気が触れ合っていた肌を冷やした。

 その虚しさに綾波レイは思わず言葉を重ねた。

「碇くんが教えてくれたから」

「うん?」

「わたしは人形じゃない。人形じゃだめだと思うもの」

「そうだね」

 碇シンジは気まずそうに微笑んだ。

「マナやアスカのこと。それを綾波に求めてもだめだよね」

 碇シンジは立ち上がった。

「どうかしてた」

「……わたしは」

 いつでもひとつになりたいのに。

「加持さんに会ってくる」

「碇くん……」

 あなたはなにを望むの?

「加持さんにも頼ってばかりじゃだめなんだけど。他に方法がないから」

「……あれのこと?」

「うん。ロンギヌスの槍ももうすぐ届くよね。急がないと」

 言い訳のように言い置いて、碇シンジは部屋を出た。

 綾波レイは。

 ……あのままでも良かったのかも知れない。

 僅かな悔恨に、立ち上がれないまま、乱れたシーツを引き寄せた。

「……碇くんの……匂いがする」

 今頃になって、火照りが身体の奥に生まれていた。



 コンフォート17マンション近くの公園に、加持リョウジの車が停まっていた。

 月はすでに高い。

「今日は、ありがとうございました」

 助手席に乗り込むなり、碇シンジは頭を下げた。

「他人行儀なことはいうなよ」

 加持リョウジは苦笑で答えた。

「君の言ったとおり、戦自の動きはあった。使徒の襲来もあった。死海文書を知ってるという君の言葉は信じよう」

「はい」

「これらは、綾波レイが情報元かい?」

 碇シンジは言葉を濁した。

「まあいい。前にも言ったように、葛城がらみのことでもあったしな。戦自の動きを牽制するのは司令にも文句はないだろう。俺の仕事の範囲内だ」

「すみません」

「霧島マナのことは安心していい。きっちりと処置したつもりだよ」

「はい。ありがとうございます」

「さて」

 声の調子を変える。

「君の話は今までのところは信じるが、それだけじゃないんだろ? まだ隠してるな」

「そういうわけじゃないんですけど。信じてもらえそうにないこともあるから」

「それは俺が判断したいがな。……ま、それもいい」

「やさしいですね」

「おいおい、大人をからかうもんじゃないぞ。で? 人類補完計画のなにを教えてくれるんだ? そして俺になにをさせたい?」

「これです」

 1枚の紙を差し出した。

「これは?」

「ドイツにゲヒルンの研究所があります。知ってますよね、加持さんなら」

 加持リョウジの顔色が変わった。

「ゼーレの本拠だな」

「多分、これは父さんも知らないんです」

「……時間がかかるぞ」

「確かめてもらってからでかまいません」

「こりゃあ、戦自どころじゃないな」

 探し求めていた核心が垣間見えた気がした加持リョウジは、逆に重い気持ちに閉ざされていた。

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