第23話「詐術」
「ふっふふ、ふふふふぅん〜」
少しメロディが違うが、ベートーベン第九、ニ短調作品125である。
コンフォート17。この規模のマンションにしてはずいぶん余裕のある浴室に、籠もって反響する。
湯船に長く横たわり、半目でハミングしている。
暖かな湯が身体にしみ通り、疲れをほぐしてくれる気がする。
カチャ、と。
ハミングを遮るようにドアが開いた。
綾波レイ。
タオルで隠すこともせず、真白の肌をさらしている。
年齢にしても、細い。
ただ、柔らかく優美な曲線を描いた形の良い乳房と、髪に似て色の薄い繊毛に透けるふくよかな股間が、確かな成長を見せていた。
無表情に脚を踏み出すと、胸の先の淡い桃のつぼみがぷるんと上下に揺れた。
湯船をちらと眺め、シャワーの栓をひねった。
シャッと冷たい水の飛沫が、繊細な少女の裸身を濡らしていった。
「つ、冷た〜い!」
綾波レイの浴びるシャワーの飛沫を顔に受けた惣流アスカは、湯に身体を深く逃がして叫んだ。
「あんたね〜、あたしが入ってんのに遠慮しなさいよ!」
「……知らなかったわ」
「んなはず、ないでしょうが!」
鼻歌を響かせていたのだ。
やや親父臭いが、時折碇シンジが口にするので覚えてしまったクラシックだから、年頃の少女に似つかわしくないとまでは言えまい。
それが、浴室外にも聞こえていないはずがない。
「問題ないわ」
歯牙にかけない答えにむっと惣流アスカ。
タオルを胸に引き当てて冷水のシャワーを浴びる白い少女を睨む。
……ったく、この女は。んー、胸はあたしのほうがずっと大きいわよね。
睨みながら、つまらないことを考えてしまった。
「ね、レイ?」
「なに?」
「あんた、いっつもシャワーで済ませてるわけ?」
「そう」
「そんなんじゃ肌荒れするわよ」
返事がない。
意味が分からなかったようだ。
言った惣流アスカも、肌荒れとは縁のなさそうな綾波レイに舌打ちした。
日本人離れした白さと、日本人的な吸い付く質感をあわせもつその肌は、惣流アスカの目にも羨望を浮かばせる。
……プロポーションはあたしのほうがずっと上だから。
うんうん、と自分を納得させる。
「明日……」
綾波レイがぽつりと言った。
「え?」
「使徒が来るわ」
「あ」
もうそんな日か、と湧きあがりかけていた桜色の妄想をうち払った。
第八使徒。甲羅に生えた蜘蛛の脚。
本部の電力ダウンで、使徒の殲滅よりもケージにたどり着くことのほうに苦労した。
「どうすんの?」
「……」
答えはシャワーの音に紛れた。
わからない、とでも言ったのだろう。
……加持さんは、確かネルフへの諜報工作だとか言ってたっけ。
いくら歴史を知っていると言っても自分たちでどうこうできる問題ではない。
「とにかく、停電になっちゃう前に本部へ行くべきね」
……学校は休むしかないか。
でも、と悩む。
シンジは使徒が来るなんて知らないんだから、どうやって本部に連れていくかよね。
「めんどくさいわね」
シャワーの音が止まった。
「じゃ。先、寝るから」
「ちょっと」
丸くて小さな尻が、ふるえて浴室ドアの向こうに消えた。
ああ、綾波! レイ、そんな格好で出てきちゃだめよ!
遠くどたばたと声が聞こえてきた。
「あ、あの女……また」
湯船で拳を震わせる。
「絶対、わざとよね」
侮れない奴、と惣流アスカは一瞬、使徒を忘れた。
『ご声援、ありがとうございます。高橋覗。高橋のぞむをよろしくお願いします……』
朝の街に、ウグイス嬢のハイトーンの声を残し、街宣車が走り過ぎていく。
「なんなの、あれ?」
呆れたような惣流アスカ。後ろを歩く碇シンジを振り返った。
「選挙カーだろ。市議会議員選挙がもうすぐだって」
「声援たって、誰も声なんてかけてないじゃない」
まだ人口の少ない第3新東京市である。通りを歩く人影もまばらだった。
まさか制服を着た中学生3人連れに言っているとも思えないが。
「さぁ」
碇シンジは少年らしくなく笑った。
「ああいう風に言うもんなんじゃないの?」
「喧しく名前をがなり立てるより、もっと言うことがありそうなもんじゃない」
伊達に大学過程まで終了しているわけでもない惣流アスカ。一家言、ありそうなことを言う。
「名前も知らない人になんて投票しないからじゃない?」
「ばっかみたい。何のための選挙なんだか」
綾波レイは興味がなさそうだ。
なにを思うのか、黙ったまま斜め前の碇シンジの通学鞄を眺めている。
「ね、アスカ、遅刻だよ? どこ行くのさ」
「黙ってついてくりゃいいの」
学校をさぼるうまい言い訳を思いつかなかった惣流アスカ。力技に出ていた。
「優等生でも文句言わずに一緒に来てんだからさ」
本部への呼び出しが多く、学校も休みがちな綾波レイを優等生と呼ぶのは似合わないが。
ネルフの命令に黙って従うその姿が、そう呼ばせたのだろう。
もっとも、『以前』の感覚だ。
シンジの前でもすぐに脱いじゃうレイなんて、優等生どころかインランってやつよね。
自分で「優等生」と呼んでおきながら、ぶつくさとそうも思う。
ここに来てからは綾波レイと同室で寝起きしているので、綾波レイもおとなしいが。
日本に来る前、碇シンジの布団にもぐりこんだ事件をもし惣流アスカが知っていれば、「インラン」という評価でさえ生やさしいと怒り狂ったかも知れない。
「綾波はどこへ行くか知ってるの?」
「……本部へ」
なにしに、と問いかけて、碇シンジは思い出した。
……そっか、使徒が来るんだ。
惣流アスカは、碇シンジもそのことを知っているとは思っていない。だから無理に引っ張っているのだろう、と理解した。
……やっぱり、最初に言っちゃうほうが良かったのかな。
でも。
と思い悩んだ。
許してもらえないような気がした。
理由はよくわからないが、『以前』とは違い、そこはかと好意を見せてくれる惣流アスカの態度を壊してしまうのが怖かった。
「本部へなにしにいくのさ?」
だから惣流アスカにそう問いかけてしまった。
「……探検よ」
「探検?」
「そっ。いっつも本部は訓練ばっかで忙しいじゃない。全体の構造くらい知ってないとね。イザってときのためによ」
「学校を休んで?」
「あんた、ばかぁ? 学校が休みなら訓練があるじゃない」
「なるほど」
苦し紛れの言い訳だろうが、なんとか誤魔化した惣流アスカの後ろ姿に申し訳なさそうな顔を向けた。
「あ」
立ち止まる背中にぶつかりかける。
「どうしたの?」
「まずい、隠れるわよ」
道路の先に、赤木リツコ、青葉シゲル、伊吹マヤの姿があった。通勤の途中だろう。
といって、隠れるところなどありはしない。
目立ちすぎる容姿の少女ふたりである。
「あれ、レイちゃん。アスカも」
伊吹マヤにあっさり見つかる。
「お、学校さぼってデートか? いけないなあ」
にやにやと長髪をゆらす青葉シゲル。背中にギターを抱えて通勤している男の台詞ではない。
レイ、あんたがグズいから、と責任を押しつける惣流アスカ。
はぁ、と溜息をついて開き直り、近寄った。
「今日は学校は休みなのよ」
「ほんとう?」
疑わしそうな伊吹マヤ。制服を着て鞄を持って、休みもないものだ。
「それで、どこに行くの?」
「本部へ行くんです」
赤木リツコの質問に碇シンジがにこにこと答える。
「本部?」
「ええ、加持さんに呼ばれていて。なんか話があるって」
「あら、そうなの」
特殊監察部の名前を出されては、特に追求も出来ない。
赤木リツコのみは少し腑に落ちない思いをしたようだが、オペレータたちはそれで納得した。
「じゃあ、一緒に行きましょう」
大人たちのあとを追いながら、小声で惣流アスカが耳打ちした。
「あんた、よくそんなデマカセ、軽く出るわね?」
「だって、しょうがないだろ?」
シンジってこんなやつだっけ? と首をひねった。
探検、と言っておきながら、碇シンジのついた嘘にあっさり乗った惣流アスカ。
本部で加持リョウジを見つけるとパフェをねだった。
「それが探検?」
「まず、食堂を探検するのよ!」
「おぃおぃ、なんの話だい?」
「なんでもないの。どうせ暇なんでしょ、加持さん」
「それはひどいなあ。俺だって遊んでるわけじゃないんだよ」
苦笑しながらも3人のチルドレンを本部士官食堂に誘なった。
「シンジくんもモテモテだな」
6人テーブル。
加持の正面に、碇シンジをはさんで少女二人が並ぶ。
「そんなんじゃないわよ」
ジャンボチョコレートパフェにスプーンをぐさりと差し込んで惣流アスカ。
「あたしの好きなのは加持さんよ。シンジなんて下僕よ、下僕」
「なんだよ」
不服そうな碇シンジ。綾波レイと同じ林檎ジュースをずずとすすりながら拗ねる。
「なあ、アスカ。大人の前ではシンジくんを下僕なんて呼ばないほうがいいぞ」
「なんで?」
「いや、まあな」
コーヒーを飲んで言葉を濁した。
「で、シンジくんの本命はどっちなんだい?」
「冷やかさないで下さいよ。ぼくらはそんなんじゃないです」
「……ちがうの?」
「こら、レイ。あんたは黙ってジュース飲んでなさいよ」
「ははは」
「まあ、若いうちは楽しめば良いさ」
「で、加持さんはミサトとヨリ、戻ったの?」
「お、おい。誰に聞いたんだよ、そんな話」
「誰だって良いじゃない。ミサトも歳だしね、高齢出産って辛いらしいわよ」
「……最近の中学校ってそんなこと教えてるのか?」
「あたしは大学、出てるんだって」
「あ、ああ、そうだったな。でも大学でもそんなことは教わらないだろ?」
「あら、常識よ」
「加持さんは大学でなにをやってらしたんですか?」
「あ、俺か? 葛城と寝てたかなあ」
「ふ、ふけつ!」
「ははは、冗談だよ。中学生にからかわれてるわけにはいかないからな」
「あたしは大人よ!」
「落ち着いてよ、アスカ」
「あんたは黙ってらっしゃい!」
「真面目な話、あんまり大学には行ってなかったからな、俺は」
「そうなんですか?」
「ああ。アルバイトやらなにやら、な」
「それで今もアルバイト、やってるんですか?」
「シンジくん?」
「あんた、なにバカ言ってんのよ。大学の時の話、やってんのよ」
惣流アスカには碇シンジの言葉の意味がとれなかったが。
加持リョウジの目は急激に鋭くなった。
少しメロディが違うが、ベートーベン第九、ニ短調作品125である。
コンフォート17。この規模のマンションにしてはずいぶん余裕のある浴室に、籠もって反響する。
湯船に長く横たわり、半目でハミングしている。
暖かな湯が身体にしみ通り、疲れをほぐしてくれる気がする。
カチャ、と。
ハミングを遮るようにドアが開いた。
綾波レイ。
タオルで隠すこともせず、真白の肌をさらしている。
年齢にしても、細い。
ただ、柔らかく優美な曲線を描いた形の良い乳房と、髪に似て色の薄い繊毛に透けるふくよかな股間が、確かな成長を見せていた。
無表情に脚を踏み出すと、胸の先の淡い桃のつぼみがぷるんと上下に揺れた。
湯船をちらと眺め、シャワーの栓をひねった。
シャッと冷たい水の飛沫が、繊細な少女の裸身を濡らしていった。
「つ、冷た〜い!」
綾波レイの浴びるシャワーの飛沫を顔に受けた惣流アスカは、湯に身体を深く逃がして叫んだ。
「あんたね〜、あたしが入ってんのに遠慮しなさいよ!」
「……知らなかったわ」
「んなはず、ないでしょうが!」
鼻歌を響かせていたのだ。
やや親父臭いが、時折碇シンジが口にするので覚えてしまったクラシックだから、年頃の少女に似つかわしくないとまでは言えまい。
それが、浴室外にも聞こえていないはずがない。
「問題ないわ」
歯牙にかけない答えにむっと惣流アスカ。
タオルを胸に引き当てて冷水のシャワーを浴びる白い少女を睨む。
……ったく、この女は。んー、胸はあたしのほうがずっと大きいわよね。
睨みながら、つまらないことを考えてしまった。
「ね、レイ?」
「なに?」
「あんた、いっつもシャワーで済ませてるわけ?」
「そう」
「そんなんじゃ肌荒れするわよ」
返事がない。
意味が分からなかったようだ。
言った惣流アスカも、肌荒れとは縁のなさそうな綾波レイに舌打ちした。
日本人離れした白さと、日本人的な吸い付く質感をあわせもつその肌は、惣流アスカの目にも羨望を浮かばせる。
……プロポーションはあたしのほうがずっと上だから。
うんうん、と自分を納得させる。
「明日……」
綾波レイがぽつりと言った。
「え?」
「使徒が来るわ」
「あ」
もうそんな日か、と湧きあがりかけていた桜色の妄想をうち払った。
第八使徒。甲羅に生えた蜘蛛の脚。
本部の電力ダウンで、使徒の殲滅よりもケージにたどり着くことのほうに苦労した。
「どうすんの?」
「……」
答えはシャワーの音に紛れた。
わからない、とでも言ったのだろう。
……加持さんは、確かネルフへの諜報工作だとか言ってたっけ。
いくら歴史を知っていると言っても自分たちでどうこうできる問題ではない。
「とにかく、停電になっちゃう前に本部へ行くべきね」
……学校は休むしかないか。
でも、と悩む。
シンジは使徒が来るなんて知らないんだから、どうやって本部に連れていくかよね。
「めんどくさいわね」
シャワーの音が止まった。
「じゃ。先、寝るから」
「ちょっと」
丸くて小さな尻が、ふるえて浴室ドアの向こうに消えた。
ああ、綾波! レイ、そんな格好で出てきちゃだめよ!
遠くどたばたと声が聞こえてきた。
「あ、あの女……また」
湯船で拳を震わせる。
「絶対、わざとよね」
侮れない奴、と惣流アスカは一瞬、使徒を忘れた。
『ご声援、ありがとうございます。高橋覗。高橋のぞむをよろしくお願いします……』
朝の街に、ウグイス嬢のハイトーンの声を残し、街宣車が走り過ぎていく。
「なんなの、あれ?」
呆れたような惣流アスカ。後ろを歩く碇シンジを振り返った。
「選挙カーだろ。市議会議員選挙がもうすぐだって」
「声援たって、誰も声なんてかけてないじゃない」
まだ人口の少ない第3新東京市である。通りを歩く人影もまばらだった。
まさか制服を着た中学生3人連れに言っているとも思えないが。
「さぁ」
碇シンジは少年らしくなく笑った。
「ああいう風に言うもんなんじゃないの?」
「喧しく名前をがなり立てるより、もっと言うことがありそうなもんじゃない」
伊達に大学過程まで終了しているわけでもない惣流アスカ。一家言、ありそうなことを言う。
「名前も知らない人になんて投票しないからじゃない?」
「ばっかみたい。何のための選挙なんだか」
綾波レイは興味がなさそうだ。
なにを思うのか、黙ったまま斜め前の碇シンジの通学鞄を眺めている。
「ね、アスカ、遅刻だよ? どこ行くのさ」
「黙ってついてくりゃいいの」
学校をさぼるうまい言い訳を思いつかなかった惣流アスカ。力技に出ていた。
「優等生でも文句言わずに一緒に来てんだからさ」
本部への呼び出しが多く、学校も休みがちな綾波レイを優等生と呼ぶのは似合わないが。
ネルフの命令に黙って従うその姿が、そう呼ばせたのだろう。
もっとも、『以前』の感覚だ。
シンジの前でもすぐに脱いじゃうレイなんて、優等生どころかインランってやつよね。
自分で「優等生」と呼んでおきながら、ぶつくさとそうも思う。
ここに来てからは綾波レイと同室で寝起きしているので、綾波レイもおとなしいが。
日本に来る前、碇シンジの布団にもぐりこんだ事件をもし惣流アスカが知っていれば、「インラン」という評価でさえ生やさしいと怒り狂ったかも知れない。
「綾波はどこへ行くか知ってるの?」
「……本部へ」
なにしに、と問いかけて、碇シンジは思い出した。
……そっか、使徒が来るんだ。
惣流アスカは、碇シンジもそのことを知っているとは思っていない。だから無理に引っ張っているのだろう、と理解した。
……やっぱり、最初に言っちゃうほうが良かったのかな。
でも。
と思い悩んだ。
許してもらえないような気がした。
理由はよくわからないが、『以前』とは違い、そこはかと好意を見せてくれる惣流アスカの態度を壊してしまうのが怖かった。
「本部へなにしにいくのさ?」
だから惣流アスカにそう問いかけてしまった。
「……探検よ」
「探検?」
「そっ。いっつも本部は訓練ばっかで忙しいじゃない。全体の構造くらい知ってないとね。イザってときのためによ」
「学校を休んで?」
「あんた、ばかぁ? 学校が休みなら訓練があるじゃない」
「なるほど」
苦し紛れの言い訳だろうが、なんとか誤魔化した惣流アスカの後ろ姿に申し訳なさそうな顔を向けた。
「あ」
立ち止まる背中にぶつかりかける。
「どうしたの?」
「まずい、隠れるわよ」
道路の先に、赤木リツコ、青葉シゲル、伊吹マヤの姿があった。通勤の途中だろう。
といって、隠れるところなどありはしない。
目立ちすぎる容姿の少女ふたりである。
「あれ、レイちゃん。アスカも」
伊吹マヤにあっさり見つかる。
「お、学校さぼってデートか? いけないなあ」
にやにやと長髪をゆらす青葉シゲル。背中にギターを抱えて通勤している男の台詞ではない。
レイ、あんたがグズいから、と責任を押しつける惣流アスカ。
はぁ、と溜息をついて開き直り、近寄った。
「今日は学校は休みなのよ」
「ほんとう?」
疑わしそうな伊吹マヤ。制服を着て鞄を持って、休みもないものだ。
「それで、どこに行くの?」
「本部へ行くんです」
赤木リツコの質問に碇シンジがにこにこと答える。
「本部?」
「ええ、加持さんに呼ばれていて。なんか話があるって」
「あら、そうなの」
特殊監察部の名前を出されては、特に追求も出来ない。
赤木リツコのみは少し腑に落ちない思いをしたようだが、オペレータたちはそれで納得した。
「じゃあ、一緒に行きましょう」
大人たちのあとを追いながら、小声で惣流アスカが耳打ちした。
「あんた、よくそんなデマカセ、軽く出るわね?」
「だって、しょうがないだろ?」
シンジってこんなやつだっけ? と首をひねった。
探検、と言っておきながら、碇シンジのついた嘘にあっさり乗った惣流アスカ。
本部で加持リョウジを見つけるとパフェをねだった。
「それが探検?」
「まず、食堂を探検するのよ!」
「おぃおぃ、なんの話だい?」
「なんでもないの。どうせ暇なんでしょ、加持さん」
「それはひどいなあ。俺だって遊んでるわけじゃないんだよ」
苦笑しながらも3人のチルドレンを本部士官食堂に誘なった。
「シンジくんもモテモテだな」
6人テーブル。
加持の正面に、碇シンジをはさんで少女二人が並ぶ。
「そんなんじゃないわよ」
ジャンボチョコレートパフェにスプーンをぐさりと差し込んで惣流アスカ。
「あたしの好きなのは加持さんよ。シンジなんて下僕よ、下僕」
「なんだよ」
不服そうな碇シンジ。綾波レイと同じ林檎ジュースをずずとすすりながら拗ねる。
「なあ、アスカ。大人の前ではシンジくんを下僕なんて呼ばないほうがいいぞ」
「なんで?」
「いや、まあな」
コーヒーを飲んで言葉を濁した。
「で、シンジくんの本命はどっちなんだい?」
「冷やかさないで下さいよ。ぼくらはそんなんじゃないです」
「……ちがうの?」
「こら、レイ。あんたは黙ってジュース飲んでなさいよ」
「ははは」
「まあ、若いうちは楽しめば良いさ」
「で、加持さんはミサトとヨリ、戻ったの?」
「お、おい。誰に聞いたんだよ、そんな話」
「誰だって良いじゃない。ミサトも歳だしね、高齢出産って辛いらしいわよ」
「……最近の中学校ってそんなこと教えてるのか?」
「あたしは大学、出てるんだって」
「あ、ああ、そうだったな。でも大学でもそんなことは教わらないだろ?」
「あら、常識よ」
「加持さんは大学でなにをやってらしたんですか?」
「あ、俺か? 葛城と寝てたかなあ」
「ふ、ふけつ!」
「ははは、冗談だよ。中学生にからかわれてるわけにはいかないからな」
「あたしは大人よ!」
「落ち着いてよ、アスカ」
「あんたは黙ってらっしゃい!」
「真面目な話、あんまり大学には行ってなかったからな、俺は」
「そうなんですか?」
「ああ。アルバイトやらなにやら、な」
「それで今もアルバイト、やってるんですか?」
「シンジくん?」
「あんた、なにバカ言ってんのよ。大学の時の話、やってんのよ」
惣流アスカには碇シンジの言葉の意味がとれなかったが。
加持リョウジの目は急激に鋭くなった。