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第15話「アスカ来日:Bパート」

 ……ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる殺してやる……殺してやる!



『ソレノイドグラフ、反転!』

『自我境界線が乱れています……』

『どうした、何が起こってるんだ?!』

『実験を中止しろ!』

『だめです、シグナル受け付けません!』

『ATフィールド発生! 出力、増大していきます!』

『……ブブブ……な! 施設が保たんぞ』

『物理閉鎖だ……電源線を切断……』

『……パイロットは!?』

『くそ……だか?』

『……スカ! 返事しろ……』

『……以上は……めです!』

『……アスカ! アスカ!』

 ガキン!!



 ……誰よ、やかましいわね!

『せ、正常に復帰……!』

『アスカ! 大丈夫か? 返事をしなさい』

『全システムをチェックだ。本部との回線、物理閉鎖急げ』

『アスカ!』

 ったく、でかい声で。聞こえてるわよ、誰よ?

 ここは……?

 エントリープラグ……弐号機?

 エヴァ・シリーズは?

 あたし、どうなっちゃったんだろ?

 シンジが来てくれた?

『アスカ! 聞こえるなら返事をしろ』

「だれよ、うっさいわね」

『無事か?』

「無事なわけない……」

 言いかけてはっとした。

 あたし、ドイツ語で話してる? 聞こえてくる通信もドイツ語だ。

「ここは?」

『精神汚染か?』

『いえ、パイロットの心理グラフ、安定しています』

『アスカ。実験中にトラブルが発生した。身体は大丈夫か?』

「……実験?」

 うっく、頭が痛いわ。

 こいつ、あれ? ドイツ支部長じゃないの。

 なんでこの人がこんなとこでいるのよ?

 わけがわからない。

『エントリープラグを強制イジェクトしろ』

 突然、振動が襲ってきた。

 ちょ、ちょっと待ちなさいよ!

 LCL が流れ出ていく。

 ハッチが開けられて……あたしは飛び込んできた連中に担架に乗せられた。



 ここはドイツ支部だ。

 なにがなんだかよく分かんないけど、とにかくあたしはドイツ支部にいる。

 病室の壁のカレンダーを見て、びっくりしたわよ。

 マジ? って完璧に固まった。

 1年近く前の日付よね、これ?

 ……時間を遡った。

 自分で言うのもなんだけど、明晰なあたしの頭脳で考えると、そうなるしかないのよね。

 夢を見てるわけじゃないわ。

 夢を見てたわけでもない。

 日本での戦い。

 加持さん。ヒカリ。ミサト。リツコ。ファースト。……シンジ。

 使徒。天使の名を持つあたしたちの敵。

 あのおぞましい白い爬虫類、エヴァ・シリーズ。

 記憶ははっきりしてるわ。

 でも、ありうるはずがない時間。

 わたしはセカンドチルドレン、弐号機専属パイロットとして、来るべき使徒との戦いに備えて訓練を重ねているところ。

 なんてことよ、まったく!

 ……でも。

 混乱がおさまると、不思議と落ち着いてきた。

 チャンス。

 そう。

 これはチャンスなのよ。

 神様が……いえ、神様なんて要らないわ。

 運命があたしを選び、あたしが勝ち取ったやりなおしの時。

 はて?

 運命って何かしら?

 一瞬、ファーストの顔が浮かんだ。

 うーん、あの子って確かに運命の女神みたいな顔してるわね。

 そういえば。

 ファーストの夢を見たような気がする……。

 ふん、ばかばかしい。

 とにかく!

 あたしは。惣流=アスカ=ラングレーは!

 もう二度とあんなみっともない負け方なんかしないってわけよ。

 ばかシンジなんかに負けるもんですか。

 ……ばかシンジ。

 あいつ、今頃、なにやってるんだろう?

 あたしが過去に戻った日、第三の使徒が現れたって聞いた。

 あいつは、なんにも知らないままエヴァに乗せられたんだったわよね。

 また苦しんで、またひとりでウジウジ考えて、泣きながら逃げながら乗ってんのかな?

 ほんと、バカなんだから、あいつは。

 待ってなさいよ。

 あたしが助けにいってあげるから、さ。

 ……助けに……。

 そうよね、よく考えてみれば、あたしはあいつに助けられてばかりだった。

 それが悔しかったんだけど。

 未来の記憶、なんてあやふやなもんだから、素直に考えられるのかしら?

 あいつは、そう、あいつなりに一生懸命だったよね。

 頼りんなくて、さ。おどおどして。顔色うかがって。

 でも、初めて使徒と戦ったときも、あいつがいてくれなきゃ危なかったんだし。

 装備も無しに溶岩の中に飛び込んできてくれたし。

 ジャージの奴を傷つけちゃって逃げ出したときにも、戻ってきてくれたのよね。

 ……あいつの作る食事もおいしかったし。

 キ、キスもしたんだし。

 そっか、あたしのファーストキスってあいつなんだ。

 いや、違うわ、今はまだしてないのよね、うんうん。

 またあいつとキスするのかな?

 ……やだ、なに考えてんだか、あたし。

 ばかシンジにキスしたなんて汚点よ、汚点。

 あたしのファーストキスは、やっぱり加持さんみたいな素敵な人でなきゃ。

 ……加持さん。

 わかってるわ、加持さんはあたしを見てくれてなかった。

 ミサトの恋人なのよね。

 子ども扱いされてたもん。それは分かってる。

 不器用だったけど。逃げ場所だったのかもしれないけど。

 あたしを見ようとしてくれてたのは、ばかシンジだけか。

 あーあ。

 修学旅行……行きたかったな。

 デートする暇もなかったし。

 そういや、デートしたこと、あったっけ?

 うーん、なんて名前だったかな、ヒカリの紹介だったのよね、えーと。

 あはは、思い出せないわ。

 顔も覚えてないや。とにかく、つまんない男だった。

 ばかシンジのほうが数倍マシよね。

 あら?

 あたしともあろうものが、思考がループしてるわ。

 あのバカのことばっかり考えていてもしようがない。

 そろそろ訓練の時間よね。

 大丈夫。

 あたしはいつでもママが見守ってくれている。

 ファーストが言ってたわよね、心を開けばエヴァは応えてくれるって。

 こういうことだったのよね。

 弐号機にはママがいる。

 いつでもあたしを見守ってくれている。

 ママ。

 力を貸してね。



「アスカ、調子がいいようだな」

「はい、絶好調ですよ」

「ドイツ支部の期待は君にかかっているんだよ。本部では初号機や零号機が動いているようだが、下手な戦いだ。君が前線に出れば、使徒など恐るるに足りんよ」

「はい、任せて下さい!」

 ……って。ぺろ。

 ドイツ支部長って好きになれないわね。

 なんだかいやな感じ。

 『以前』は誉められたら単純に喜んでたんだけどな。

 エヴァも使徒も、教えられていたようなモノじゃないものね。

 ……大人になったのかな、あたし。

 それにしても、いったいいつになったら日本に行けるのかしら?

 ばかシンジやファーストがどうにかなっちゃってからじゃ遅いのよ?

 ああ、イライラするわ。

 だいたい、なんで本部の情報がまるっきり入ってこないわけ?

 同んなじネルフでしょうに。

 シンジの名前だって、ここじゃ一度も聞いてないなんて。

 ファースト。セカンド。サード。

 あたしたちは記号じゃないわよ!

 そう、これは記号よね。

 称号だと思ってたけど、ただの記号なんだわ。

 うーん。

 ファーストをファーストなんて呼ぶのはやめないとね。

 レイ。綾波レイ。

 シンジはずっと「綾波」って呼んでたわよね。

 そういや、なんであたしのことは「アスカ」って呼ぶようになったんだっけ?

 んー、思い出せないな。

 ま、いいわ。

 あいつには「アスカ」って呼ばせてやろう。

 そしてあいつは「ばかシンジ」よね。

 一生あいつはあたしの下僕よ。

 ばかばかばかばか、ばかシンジ。

 はやく逢いたいな。



「はじめまして、アスカ? いやぁ、噂以上の美人だね。光栄だよ」

「は、はじめまして」

「これから俺が君の護衛役になる。お姫様は命に代えても守るよ」

「よろしくお願いします……加持……先輩」

 うーん、素敵な加持さん。

 って、二度目に聞くと、キザよね、キザ。

 えへへ、1年前はこれでころっとまいっちゃったんだけど。

 そっか、可愛いってのは言われ慣れてたけど、美人、だとか、守る、だとか言われてクラッときちゃったんだわ。

 でも……ばかシンジに守ってもらったことはあるけど、加持さんに守ってもらった事なんてないじゃない?

 そりゃまあ当り前だけど。

 無敵のエヴァパイロットをどうやって守るってのよ、ね。

 なんにしても。

 加持さんに引き合わされたってことは、ようやく日本にいけるわけだ。

 はぁ、長かった……。

「ねえ、加持先輩? 日本のこと、教えてくれませんか?」

 あんまり最初から馴れ馴れしくしたら、怪しまれるし、ね。

 未来の記憶、なんて人にいうもんじゃないし。

 たいてい、こんな秘密を握っちゃってると、命を狙われるもんよ。

「日本のことかい? なにを知りたいのかな?」

「えーと……」

 困ったわね。

 シンジのこと、なんて聞くわけにいかないし。

 まあ、記憶通りなんだろうから、だいたいのことは知ってるわけだけど。

「セカンドインパクトの影響で日本は常夏になってしまった。俺たちが子どもの頃は四季があって、自然の恵み豊かな国だったんだけどな」

 あら、どうでもいい話になっちゃったわよ?

「まあ、そのおかげで、1年中、スイカが食える」

「スイカ、ですか?」

「ああ、食べたことあるか? 赤い氷のような果肉をしていてな。塩をふって食いつくと、シャリシャリっとした舌触りの中に甘いしみ通るような果汁が口いっぱいに広がるんだ」

 か、加持さんってこんな人だっけ?

 はっきり質問しなかったのが悪かったのかしらね。

 あぅ、涎が出ちゃったじゃない、みっともない。

「あ、あの、使徒のこととか」

「うん? 使徒か。やっぱりそれが一番、気になるか」

 あ、からかわれてたんだ、失礼しちゃうわね。

「まあ、行けば嫌でも戦うことになるさ」

 そうだ、この会話は覚えている。

 加持さんの見せる大人の深刻な表情。これにもクラクラきちゃったわけだったけど。

 実際に使徒と戦った記憶があるものね、今の私は。

 その辛さも、酷さも、身体に心に染みついている。

 今の加持さんよりもよっぽど……。

 この気持ちを分かち合えるのは……やっぱりパイロットしかいない。

 ファー……レイはちょっとあれだけど。

 シンジなら分かるだろうな。

 結局、あいつが一番酷い目を見ていたのかも知れないし。

「サ、サードチルドレンってどんな子ですか?」

「あ、ああ。俺も直接には会ったことがないからな。はっきりしたことはよく分からない。俺自身もはやく会ってみたいと思ってるよ」

 そっか。

 そうだったわよね。

 あたしが一番、あいつのことをよく知っているんだ。



 やっと輸送ヘリが到着した。

 ああ、待ちわびたわよ。

 鈴原、相田、ミサト。……シンジ。

 来たわね。

 はん! また帽子飛ばしてるわよ、ジャージ男。学習能力のない奴ね。

 ……って、そっか、あいつにとっては初めてか。

 なんか妙な気分ね。

 あたしは、クスッと思わず笑ってしまった。

 前と同じように踏んづけてやってもよかったんだけど……。

 鈴原がフォースチルドレンとして使徒に浸食された時のことを思い出して、片足を失った事故を思い出して。

 踏んづけるのはやめにしてやる。

 帽子を拾い上げて、連中を見つめる。

 あら、ばかシンジのやつ、えらく嬉しそうにしてるじゃない。

 それに落ち着いてるわね?

 ちょっとかっこよく見えるかも。

 ううん、あたしの心の乱れね、これは。

「ヘロゥ、ミサト! 元気してた?」

「ま、ね。あなたも背、伸びたんじゃない?」

「そ。他のところも、ちゃあんと女らしくなってるわよ」

 1年分の成長がリセットされちゃったのだけはちょっと残念だけど、ね。

 エヴァの操縦訓練なんて目を瞑っていても出来るようになっていた分、肌の手入れには時間をかけたのよ。

 見なさいよ、ばかシンジ!

 あ、風だ。

 まずいまずい、パンティ、見られたんだわ、前は。

 学習能力のある私は、きわどいところでスカートを押さえることに成功した。

 見るんじゃないわよ、ばかシンジ!

 けっ、こいつら、期待に溢れたスケベな目をしてるわね。

 えーい、前に見たじゃないのよ、三バカトリオが!

 パン! パン!

「な、なにすんねん!」

「見てないぜ!」

 あ、そっか。

 なんか混乱しちゃったわね。ごめん、ね。

「はん! 覗こうと鼻の下伸ばしてるのは誰よ! 見ても見なくても同罪よ!」

 ちぇ、シンジのやつ、なんでそんな後ろに居んのよ。

 あたしはシンジを見つめて、近寄った。

 ん?

 ずいぶん、優しそうな目で見るわね?

 そう、このシンジはあのシンジじゃないものね。

 辛そうに、泣いて、すがっていたのは終わり頃だ。

 最初の頃は、ユニゾン訓練とか……うまくやれてたのよね。

 見てなさいよ、シンジ。

 あたしにすがるんなら、すがりなさいな。

 あんたを助けてやるわよ、あんたなんかには負けない。

 あんたの全てはあたしのものよ?

 くくくっ。

 さんざん、このあたしを待たせてくれたわね。

 ばかばかばかばかばかシンジのくせに!

 だけどあたしもちょっと。

 ちょっとだけやさしくなってあげるわよ?

「よろしくね、ば・か・シンジ!」

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